サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー暴食の醍醐味、硬い食べ物への偏愛……“おいしい”だけじゃない食べ物の魅力をつづった『わるい食べ物』 カルチャー 暴食の醍醐味、硬い食べ物への偏愛……“おいしい”だけじゃない食べ物の魅力をつづった『わるい食べ物』 2019/01/13 19:00 ブックレビューサイジョの本棚 著者の周りの魅力的な“類友” しばしば自身を「偏屈爺」と呼ぶ通り、著者の食へのこだわりは強いが、どのエッセイにも食自体への愛が込められていて、偏屈さを発揮している時ほど「好きなことを語っている人」特有の熱がこもり、妙に生き生きとしている。 そして、類は友を呼ぶのか、著者の周りにはチャーミングな食いしん坊が集まっている。料理人である著者の夫を筆頭に、大の甘党で「とらやの羊羹なら一本食いができる」篆刻(てんこく)の師匠・S先生。「死んだら棺桶にあんこを詰めてくれ」が口癖の、著者が勤めていた病院のO部長。がんを患い、生きるか死ぬかの瀬戸際でもこっそりケーキを食べ、「いつどうなってもいいように、好きなものを食べ、悔いのない人生を送る」と語った京都の洋菓子店の奥さん。著者によって描写される「体にわるいかもしれないけど、精神にいい食べ物」を愛する人々の姿は、それぞれひと癖ある魅力にあふれていて、その人なりの信念があれば、「体にいい食事」ばかりが食べ方の正解ではないと思わせてくれる。 ほとんどの人は、日常の食について深く意識することはない。それでも、今日自分が口に入れた食べ物、昨日作ったメニュー、そういった一つ一つの食にはそれぞれの選択があり、自分だけの思い出が詰まっている。『わるい食べもの』は、著者がユーモアを込めて語る食の好みや思い出を楽しくたどるうちに、読者自身の食にまつわる個人的な思い入れをも呼び起こしてくれる。いい食べ物もわるい食べ物も合わせて、あらためて自分の食の記憶を味わいたくなるような1冊だ。 (保田夏子) 前のページ12 最終更新:2019/01/13 19:00 関連記事 “SNSにおける小さな快楽”の先にある真っ暗な闇――『静かに、ねぇ、静かに』の読後感の悪さレシピ本やグルメ本には書かれない「食べること」3冊――食を支える“生活感”の魅力美少年、バッタ、童話作家――「偏愛」に生きる“賢くない”者たちによる魅力的な3冊「ちゃんとした料理を作らなきゃ」「ていねいに暮らさなきゃ」、“料理”に自分で呪いをかけてない?向田邦子×水羊羹、色川武大×氷いちご。作家の偏愛がおかしくも小気味よい『ひんやりと、甘味 』 次の記事 ジャニーさんのスペオキ候補の9歳児現る >