カルチャー

暴食の醍醐味、硬い食べ物への偏愛……“おいしい”だけじゃない食べ物の魅力をつづった『わるい食べ物』

2019/01/13 19:00

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

■『わるい食べもの』(千早茜/ホーム社)

■概要

デビュー作『魚神(いおがみ)』(集英社)で、小説すばる新人賞と泉鏡花文学賞をダブル受賞し、直木賞にも複数回ノミネートされている注目の小説家・千早茜による、初のエッセイ集。世の中に氾濫する「いい食べ物」を横目に、糖質たっぷりの食事への思い入れや、食にまつわる幼少期の思い出、食をめぐる常識への疑問など、さまざまな角度から「食べること」をテーマにした41編が収録されている。

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 世の中に、「いい食べ物」についての本はあふれている。おいしいレストランを教えてくれるガイド本や健康にいい食材や調理について書かれた本――。小説家・千早茜がつづった『わるい食べもの』は、“食べること”についての思い入れを語るエッセイだが、タイトルから察せられる通り、「いい食べ物」についての話ばかりではない。序文に「おいしいものしか食べたことがない、という人がいたら相当の幸せ者だろう。たいていの人は『おいしい』の裏にある膨大な『まあまあ』や『まずい』や『うまくもまずくもない』を経験して生きている」とある通り、特別ではない日常食への愛から、おいしいというわけではない食事の思い出、体の毒になる暴食の醍醐味まで、「食」というジャンル自体を表も裏も味わい尽くすようなエピソードが詰まっている。

 本作で一貫しているのは彼女の「健康のために食事をするなんて人生の無駄だと思っている。食べる目的はただひとつ。体が求めるから」というさっぱりした姿勢だ。

 自宅で食べるカレーや牛丼は「がんがん食べ『あー食べ過ぎた!』と転がって後悔したい」と語り、体にいい食材だけを食べられるデリに連れてこられれば、豊富すぎる選択肢に「この中から即断できる人ってすごい。日々バリバリ英断を下している意識高い系ビジネスマンならわけもないのかもしれない」とおののきつつ、「菓子と肉への意識だったら私だってべらぼうに高い」と謎の対抗心を見せる。愛する「硬い食べ物」の魅力をつづり、「『ふわふわ~』とうっとりするようなグルメ番組だけではなく、『ものすごい歯ごたえです!』『噛んでも噛んでも終わらない気がします!』『私、もう顎が限界です!』とリポーターが顔をゆがめながら食すグルメ番組があればいい」と妄想する。

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