サイゾーウーマンカルチャーブックレビューSNSの小さな快楽の先にあるもの カルチャー [サイジョの本棚] “SNSにおける小さな快楽”の先にある真っ暗な闇――『静かに、ねぇ、静かに』の読後感の悪さ 2018/11/24 17:00 ブックレビューサイジョの本棚 「SNSで幸せそうに見えることが大事」の先にあるもの 3人は、街で適当に拾ったタクシーに乗り込む。暗くなっていく中、目的地とは違う場所に連れて行かれているようなのに、誰もおかしいと言いだせない。逃げ出すチャンスは何度もあったのに、自分のネガティブな感覚を信じきれず、LINEトーク上のうわべの平穏にすがりつく。「本気でヤバい状況なら、こんなノリの返事が送られてくるはずがない」。タクシーにはごみ袋とスコップを持った知らない現地のおじさんも乗り込み、3人は人けのない郊外へ連れられていく――。 最初はのんびりと、徐々に加速していく巧みな展開の中に、意に沿わないものは排除する自分本位のポジティブ精神や、SNSに投稿されたことが本当で現実で感じたことはどうでもいい、という心理のシュールさが皮肉を効かせながら織り込まれている。 中年男性視点だと思うと少しむずかゆい文体は、おそらく大方の読者にとっては感情移入しにくいものだ。自分とは遠い存在として読んでいるからこそ、彼らの滑稽さを楽しめるが、顧みれば「実際幸せかどうかより、SNSで幸せそうに見えることが大事」という心理は、人ごとではなく、私たちの身近な感覚を浸食していることに気づかされる。 そんなに好みではなくても、目の前にSNS映えする光景、はやっているスイーツがあればとりあえず撮影する。投稿して、「いいね!」をもらう。「自分が実際に感じたことより、SNSで残ったことが重要」という感覚がおかしいことはわかっていても、手軽に得られる小さな快感に抗えない。「みんなやってることだから」「少しくらいなら」、そう思いながらズルズルと麻痺した先になにがあるのか。「本当の旅」は、そんな無意識の不安をすくい取っているから、後味が悪いと感じつつも、どこかスッとのみ込めてしまうのだろう。 ネットショッピングへの依存が正常な判断を失わせてしまう「奥さん、犬は大丈夫だよね?」でも、「不幸そうな外見だから、幸せになるべきではない」という諦念と倦怠がこびりついた「でぶのハッピーバースデー」でも、著者は、インターネットがもたらした小さな違和感を拡大し、エスカレートさせた先の暗黒を読者に提示する。3編とも読後感は苦い。しかし、キラキラしたSNSの世界に息苦しさを覚えた人には、その後味の悪さはわずかな清涼感となるのだ。 (保田夏子) 前のページ12 最終更新:2018/11/24 17:00 Amazon 静かに、ねぇ、静かに 流行りとポジティブの相性の良さな! 関連記事 地層のように重なっていく孤独や被害妄想……「大阪市母子餓死事件」を題材にした小説『ここにいる』切迫する生活と死の気配が官能的な空気を作る、異色の恋愛小説『じっと手を見る』谷崎潤一郎「女の王国」、岡本かの子「3人の男奴隷」文豪の私生活スキャンダルを読む3冊「ちゃんとした料理を作らなきゃ」「ていねいに暮らさなきゃ」、“料理”に自分で呪いをかけてない?セレブ専業主婦&女子アナを苦しめる、“勝ち組”ゆえの特殊ルールの正体 次の記事 秘密を隠していた大谷亮平に批判殺到 >