カルチャー
インタビュー【後編】

のぶみ“働く母親像”炎上に考える、子どもを保育園に預けることはなぜ“罪悪感”を生むのか?

2018/10/07 16:00

――とはいえ、働く母親が罪悪感を一切抱えていないかといわれると、そうではないかなと思うところもあります。

千田 リーマンショック以降、経済が不安定になって、女性も働きに出て家計を支えるというのが、もはや一般的になってきています。とはいえ、男性にとって“働く”ことがほぼ義務であり、選択する余地のないものであるのに対し、女性が“働く”というのは、まだまだ選択肢の1つではあるんです。「主婦でいる」という選択肢もありますからね。もちろん、男性にも主夫という選択肢はありますが、女性よりもその選択肢は、まだ一般的ではありません。ですので、女性が働きに出ると、必然的に「働かないという選択肢もある中で、自分はあえて働くことを選んだ」という、選択をした自分への責任感が伴ってくるんです。これが、働く選択をしたことへの罪悪感と迷いにつながっているんだと思います。

――実際に「ここまでして、働く必要があるのか」という声を、働くママから聞くことはあります。

千田 保育料だってバカになりませんからね。雇用形態の不安定さや長時間労働、過酷な職場環境など、働く環境によって、そのような気持ちが出てきて当然だと思います。これらは社会問題として、解決していくほかありません。

 一方で、個人の問題として、子どもと離れている間に感じる不安から、母親が働くことへの罪悪感が生まれることもあるのでしょう。ただ私としては、保育園に預けることは悪いことじゃない、と思っています。「子どもは3歳まで、常時家庭において母親の手で育てるべき」という、いわゆる「3歳児神話」については、1998年に厚生労働省が「少なくとも合理的な根拠は認められない」という見解を出しています。最近では、幼児期に集団行動をすることで、社会性が身につくという研究結果も出ていますし、これに関してはいろんな説があるんです。お友達や先生と一緒に過ごす方が、母親と2人でいるよりも、子どもは楽しんでいる……そう思っていいんじゃないでしょうか。

――ただ、子どもにたくさん時間を割ける専業主婦をうらやましいと思う瞬間もあるかと思います。

千田 それはわかります。時間がある分、習い事もたくさん通わせてあげられますしね。でも、よほど稼ぎのいい男性と結婚しない限り、女性も働かないと家計が不安だというのが現実だと思うんですよ。今は、女性も働いてあたりまえ、共稼ぎじゃないとやっていけない世の中だと思います。

 専業主婦のママが、子どもに手作りのおやつをあげているのを見ると、罪悪感を覚える……なんてこともあるかもしれませんが、そんなこと、感じなくていいんですよ。私の母親は専業主婦で家にいて、手作りのおやつを作ってくれていたのですが、その立場から言わせてもらえば、「プッチンプリンの方がおいしい!」ですからね。母親の作るものって地味じゃないですか。だからプッチンプリンやコーラを常に口にしたかった記憶があります。世の中には、こんなに甘くておいしいものがあるんだって感動していました。子どもなんて、そんなものです。立派に子育てをしなくても、子どもは普通に育ちます。保育園にはお友達もいるし、先生もいろんな遊びを教えてくれるし、しつけだってちゃんとしてくれます。世の中の働くお母さんも「それでいいんじゃないか」と思えるようになれたらいいと思います。
(取材・文/大野英子)

千田有紀(せんだ・ゆき)
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』(勁草書房)、『女性学/男性学』(岩波書店)、共著に『ジェンダー論をつかむ』(有斐閣)など多数。

最終更新:2018/10/07 16:00
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