サイゾーウーマンカルチャー社会データから見る児童虐待の現実 カルチャー 【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第1回 「加害者の半数は実母」「幼児より新生児の被害が圧倒的に多い」――児童虐待の事実をどのぐらい知っていますか? 2018/08/14 19:00 インタビュー虐待社会 本当はもっと多い? 虐待死 第13次報告では、「心中以外の虐待死」は48件52人。平成21年以降、虐待死は心中も合わせて年間100人を超えてはいないが、小出氏は「これはあくまで事件として認知された事実に基づいた数字」だと指摘し、「日本小児科学会が2016年に発表した推計では、虐待で死亡した可能性のある15歳未満の子どもは、全国で年間約350人に上るといわれています」。 死亡事例を分析してみると、心中以外の虐待死の場合、主たる加害者は「実母」が50%、「実父」が23.1%、「実母と実父」が9.6%で、80%を超える割合で実の親が加害者になっている。最も多い子どもの年齢は0歳児で57%、そのうち月齢別にみると0カ月が43%と高い割合となっている。これは生後まもない子を殺したり放置したりする「新生児殺・新生児遺棄」が多いものとみられる。1歳が7.7%、2歳が5.8%。3歳児が9.6%、4歳が1.9%、5歳は3.8%となっており、他の年齢と比べて0歳が突出した数字になっていることがわかるだろう。 併せて注視したいのは、「母親が抱える問題」(複数回答)で、「予期しない妊娠/計画していない妊娠」が34.6%と最も多く、次いで「妊婦健診未受診」が32.7%、「若年(10代)妊娠」が25%。加虐の動機(複数回答)は、 「保護を怠ったことによる死亡」が11.5%と最も多く、次いで「しつけのつもり」「子どもの存在の拒否・否定」「泣き止まないことにいらだったため」が9.6%。思わぬ妊娠・出産により、どうしていいかわからないというパニックやいら立ちが激化し、子どもを死に至らしめることが数字から読み取れるのではないだろうか。 ■虐待死を招く、親のリスク要因 「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13時報告)」より(社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会【平成29年8月】) ※クリックで拡大表示 では虐待死事件を起こしてしまう親にはどんな要因があるのだろうか。小出氏は第13次報告にある、「子ども虐待による死亡事例等を防ぐためのリスクとして留意すべきポイント」の「養育者の側面」カテゴリーを重視すべきだという。 「この項目から何が見えるかというと、加虐親自身がケアされずに育ってきた=健康的な家族をモデルとできない環境で、親以外の信頼できる大人とも出会わずに来たということです」 これらの中には、自身も虐待を受けた人が少なくなく、子育ての楽しさや面白さを親から受け継げなかった場合が多いという。小出氏は「虐待された子が全員、虐待する親になるわけではない」としながらも、「養育者の側面」に挙がっている、「妊娠の届出がなされておらず、母子健康手帳が未発行である」「妊婦健康診査が未受診である又は受診回数が極端に少ない」「関係機関からの連絡を拒否している」などの項目は、他人と信頼関係をうまく築くことができずに、孤立した状態につながっていると指摘する。 さらに自身が“叩かれて育った親”の場合は、「悪いことをすれば叩かれて当たり前」という思いから暴力そのもののハードルが下がり、支配的な親子関係になるという。また「母親に比べると父親の力は強いため、しつけのつもりの暴力で子どもが死亡したり重篤な状態になるケースもあります」 また、厚生労働省や市区町村が虐待リスクとして注目するのが、乳幼児の健康診査の受診状況だ。未受診が「他人に関わってほしくない」という孤立した親であることのサインになると同時に、実は健診が子育ての行き詰まりを解消する貴重な場として機能しているからだ。筆者は市区町村による4カ月健診に行った際には、保健師から「離乳食が始まると、一生懸命作ったのに赤ちゃんが思うように食べないことから虐待の引き金になりやすい」という話があった。小出氏は離乳食が直接的な虐待の要因にはならないとしつつも、「子どもの成長の節目は、子育てが難しくなる」という。 自治体による健診は生後4カ月・1歳半・3歳を設定しているところが多いが、首のすわり・歩行などの運動発達や言葉の発達などの成長の節目に合わせているのだという。「子どもの成長は早いので、親のほうが『昨日までと同じことをしていてもダメだ!』といった気苦労を抱えることが多い。子どもの変化についていけないと親の余裕がなくなり、子育てにおける柔軟性がなくなる。そうすると子どもにイライラすることが多くなるのかもしれません」。健診では保健師らから「多少離乳食の食べる量が少なくても問題ない」「まだ寝返りをうたなくても、それはその子の個性」とアドバイスをされたり、居合わせた親子と話すことで「悩みを抱えているのは自分だけじゃない」「あの子にできることがうちの子はできていないけど、別のことはできている」などと冷静になったり、子育てに思い詰めていた気持ちがほぐれることもある。だからこそ、未受診が続く親子は孤立し追い詰められている可能性があると見られるのだ。 一方で、数字では出てきにくいが、子どもの虐待死事案の場合は、「虐待の連鎖」や「若年での妊娠」などの複数の因子が重なっており、その多くは「貧困問題」を含んでいるという。「最近、注目されているのが、『漂流する母子』です。生活のために母子で転居を繰り返す。子育て支援は市区町村ごとに管轄しているため、住民票を移さずに転居すれば、「支援の空白時間」ができてしまうのです。その根底にあるのは、貧困問題です。母子家庭で、昼も夜も働かなければ生活できないという人も多く、子どもを後回しにすることになってしまうのです」 第2回では、第1回の「データから見た虐待の事実」を踏まえた上で、世論が求める児童相談所の権力強化や虐待通告の警察との全件共有がはたして有効なのかを考えてみたい。 前のページ12 最終更新:2018/08/14 19:00 Amazon 児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか (朝日新書) 虐待を恨む気持ちも大事だけど、現実を知ることも大事 関連記事 元職員が語る「児童相談所」バッシング――目黒虐待死の事実は重い、それでも知ってもらいたいコト【モンペと呼ばないで!】バレエ教室で「娘だけ裸足練習」……これは指導なの、虐待なの?『X-メン』シリーズ監督、少年への性的虐待疑惑が膨れ上がり、ついにハリウッド追放か『子宮の中の人たち』作者・EMI、ニコ生“過激配信者”の過去と幼児虐待疑惑で大荒れ年間30人以上の子どもが親に殺されている 親子心中事件は、なぜ起こるのか? 次の記事 関ジャニ・村上が沈黙した「禁断ネタ」 >