サイゾーウーマンカルチャー社会子どもを虐待する親の心理をひもとく カルチャー 【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第5回 なぜ「虐待する親」「パートナーの虐待を止めない親」が生まれるのか、臨床心理士が心理状態を分析 2018/08/22 19:00 インタビュー虐待社会 なぜ母親は、パートナーの虐待を止められないのか? ――虐待事件において、パートナーがわが子を虐待するのを黙認、または加担する母親の心理についてもお聞きしたいです。世間では、そういった母親を「なぜ止めに入らなかったのか」「子どもを連れて逃げればよかったのに」などと、責める声が鳴りやみません。 杉山 母親がパートナーにおびえていることが多いように感じます。「恐怖」は、人間の感情の中で最も強力な感情なので、強い恐怖に支配された状況が続くと、一種の洗脳状態になってしまいます。一般的な思考なら、“恐怖対象となる人物”、つまりパートナーから「逃げよう」となるでしょうが、「逃げると、もっと怖い思いをする」と考えてしまうんです。これは裏を返せば、「パートナーのそばにいれば、今以上の恐怖にさらされる心配はない」ということですから、母親は次第に「パートナーのそばにいたい」と思うようになり、逃げたり離れたりできなくなります。 さらに、母親が他人への依存が強い傾向にあったり、ほかに自分を守ってくれる人がいない場合、1人になることへの恐怖心も加わって、「パートナーの味方をしなきゃ」という心理が働きます。パートナーを怒らせないことが目的となって、子どもを優先できなくなるんです。その結果、わが子がパートナーに虐待されていても、「母親としてこれでいいのか」などと考える余裕がなくなり、「パートナーと仲良くしていれば、私は安心」と思うに至ります。このように、“恐怖”と“安心”という心理を行き来するうち、虐待に協力的になり、止められなくなるわけです。なかには、パートナーに虐待されているわが子を「かわいそう」と思う母親もいるでしょうが、子どもを守りたくても、やはり恐怖心が勝って行動に移せないのでは。 ――恐怖で支配するような男性を「嫌いになる」ことはないのでしょうか? 杉山 幸せな家庭で育った経験、また男性から大事にされた経験などがあれば、そのような男性を“嫌う”ことができると思います。しかし、そもそも家庭の温かさや愛情を知らないと、恐怖に支配され続けて思考がマヒしているので、“好き嫌い”よりも“恐怖”にウェイトが置かれてしまうんです。 ――「親ならば、子どもを守ろうとするはずでは」といった見方をする人も少なくありません。 杉山 「母親には母性が備わっているから、子を守るはず」という考えは間違っていますし、そもそも“母性本能”の存在自体が幻想です。確かに、成熟した哺乳類には、赤ちゃん的な特徴(ベビーシェマ)を持つ生き物に対し、「かわいい」「何かしてあげたい」と感じるという本能が備わっているのですが、これは母親だけが持つものではありません。そもそも、なぜ母親が子どもを大切にできるかといえば、周囲から“赤ちゃんのママ”として大切にされるからこそで、母性本能によるものではないんです。母親自身が大切にされていない環境だと、ベビーシェマの働きによって、一時的に子どもをかわいがれるときはあっても、気持ちに余裕がなくなったり、負担に耐え切れなくなったりすると、子どもを大切にできなくなることがあります。 次のページ 誰もが、わが子を虐待する可能性を持っている 前のページ123次のページ Amazon 心理学者・脳科学者が子育てでしていること、していないこと 関連記事 元職員が語る「児童相談所」バッシング――目黒虐待死の事実は重い、それでも知ってもらいたいコトMJの長男が、奇妙な仮面をつけられていた幼少期や児童性虐待疑惑について率直な思いを語る20歳シングルマザーの貧困と孤立、“虐待の連鎖”が浮かび上がる「大阪2児放置・餓死事件」下ネタは児童虐待? 久本雅美との共演で芦田愛菜へ広がる波紋単身者でも“親”になれる 厚生労働省に聞く、日本の里親制度の課題とは?