おやさま信仰と、ピュアな空間――“天理教ド素人”の私が、たった2日で「仕上がった」!?
この時間、講義をするのは和田サンではなく、大教会の教会長兼教団幹部の男性、要は偉い人です。岸部一徳からクセを抜いたような、ダンディーなおじさまです。
あらかじめ配られていたテキストを基に講義を行うのですが、このテキストが素人にはさっっっぱりわからない! 「おやさま」や「真柱様」といった天理用語はまだまだたくさんあるのですが、テキストにはそうした言葉が羅列してあって、初心者には解読できない仕様になっています。
「ふしから芽が出る」
とか、意味がわからないでしょう? わたしもいまだにわかりません。
さて、岸辺一徳の話はテキストとは違い、非常にわかりやすいものでした。
ある信者家族の実話感動エピソードを、情感たっぷりに話すものですから、隣の介護士女性は美しい涙を目にため……るどころか、頬に伝わせているではありませんか。
なんてピュアな空間なんだろうか。
彼女の涙を見てわたしも真剣に聞いてみると、こんな話でした。
ある少女が、母の日にサプライズで近所の花畑からきれいな花を取ってこようとした。が、突然の大雨。少女が遭難したと一家は大騒ぎ。ずぶ濡れで帰ってきた少女に、母親は「なにをやっていたの!」とガチギレ。少女、ギャン泣き。すぐに風呂場へ行かせると、少女の手に美しき一輪の花が握られていることに気づきました。母親は、ガチギレしてしまったことに胸を痛めます。
少女がすんすんと泣きながら風呂場から上がると、食卓のテーブルには、一輪の花が飾られています。
「ありがとう」
母親は少女を抱きしめましたとさ――。
天理教の教えのひとつに、「家族を大切にする」というものがあるそうで、岸部一徳も、強く、そして優しく、家族の尊さを訴えていました。
ちょっとすごい「家族愛」
なのですが、この矛盾に気づくのに、時間はかかりませんでした。
岸部一徳の講義が終わると、また班での取り組みの時間。和田サンが、「あなたにとって大切なものはなんですか?」というお題を出し、優先順位を書き込むプリントを配ります。
よく心理テストにありがちなものですが、「家族」「友情」「笑顔」「お金」「健康」「仕事」「才能」そして、「信仰心」などなどを、優先順位順に並べたものを、班の中で発表し合うのです。
先ほどの講義のあとですから、やはりみな、「家族」が優先順位を上げてゆきます。
特に、ほっしゃんの家族愛は異常。優先順に並べるどころか、「家族」しか書いていません。
その後、同じように、「あなたの好きな人と苦手な人を書いてください」といったような取り組みの際には、みな胸の内を少しずつ吐露するようになりました。
「両親は好きだが、兄が苦手」
「教会長の父親のことを手伝わないから、古株信者さんからのプレッシャーが半端ない」
「実は嫁姑関係が悪い」
「長男が通っている保育園の園長と合わない」
わたしも「両親の価値観やマウンティング癖が苦手で、折り合いが悪い。小さい頃から早く家を出たかった」など、さっきの家族愛を否定するようなことを話しました。そんななか、ほっしゃんは一言ポツリと、
「会社先輩のY氏が苦手」
と言います。なんの気なしに、「シャブをむりやり勧めてくるような人なんですか?」とわたしが聞くと、
「そうだよ」
と真顔で言うので、冴え渡る自分の勘はもしや「おやさま」以上なんじゃないかと、うぬぼれたものです。