ユニクロが抱える“3つの地雷”――「とにかく安い」「質がいい」崩壊の足音も?
とはいえ、この世界に完全無欠の企業なんて存在しませんから弱点もあるはずです。今回はそんな圧倒的強者になりつつあるユニクロの落とし穴を考えてみましょう。
1.原材料費の値上がりで「低価格・高品質」が崩壊!?
衣料品の原材料費は年々値上がりしています。ユニクロはご存じのように低価格・高品質で評価されたブランドです。原材料費が値上がりすれば、その分商品価格を値上げするほかないのですが、ユニクロは14年秋冬に、原材料費の高騰を受けて5%の値上げ、15年秋冬にさらに10%の値上げをしたところ、売れ行きが伸び悩み、16年から値上げを撤回しました。一度値上げに失敗していますから、次からは、そう簡単に値上げはできません。
衣料品の材料には、綿・麻・ウール(羊毛)・カシミヤ(高級獣毛)・ダウン(羽毛)などがありますが、このうちウールが今年年初に大幅に値上がりし、同じくダウンも値上がりしています。そして、カシミヤは毎年値上がりし続けているのです。多くの衣料品メーカーは「今年秋冬物向けの材料はほぼ確保できているので問題はないが、来秋冬からはウール、ダウン、カシミヤ製品は値上げせざるを得ない」と言い、ユニクロももちろん同様の危機に直面しています。
また、綿も5月には値上がりし、綿(コットン)製品の価格も現状維持し続けられるかは不透明。特に「低価格・高品質」を看板にしてきたユニクロにとっては、低価格を捨てるのか、高品質を捨てるのかという厳しい選択が迫られる状況になることも、今後はあり得るかもしれません。一方、消費者にとっても、「低価格・高品質」の崩壊は、ユニクロの魅力がなくなるに等しいのではないでしょうか。
2.国内でユニクロ飽和状態、「どこにでもある」がネックに
ユニクロの現在の国内売上高は8000億円で、店舗数は800店舗以上あります。国内でのブランド規模拡大はそろそろ限界に近付いていると言わねばなりません。また出店場所も全国的に目ぼしいところには出店し尽くしたと言えます。都心や郊外を見ても主要な商業施設・商業エリアにはほぼ出店してしまっています。8000億円のブランドなんて国内にはユニクロしかありません。先述の通り、一説には日本人の96%がユニクロの商品を購入したことがあると言われており、これ以上の国内でのシェア拡大はかなり難しいと言わねばなりません。
とはいえ、成長を貪欲に追求する柳井正会長ですから、何としてでも売り上げ規模の拡大を狙うと考えられます。売上高を伸ばすには、「1.店舗数を増やす」「2.客単価を上げる」「3.買い上げ客数を増やす」の3つのうちのどれかを、または全部を実行する必要があります。1の店舗数を増やすことはこれ以上難しいでしょうし、3の買い上げ客数を増やすのも、ほとんどの人が所有しているといわれる状況ではこれも難しいと言わねばなりません。残るは2の客単価を上げることですが、目に見えた値上げも容易ではありません。どのような施策を取るのかに注目したいと思いますが、消費者にとっては客単価の上積を狙っての値上げは受け入れづらいのではないでしょうか。
3.最大の弱点は後継者問題! ユニクロが街から消える?
これがユニクロを擁するファーストリテイリング最大の弱点です。2兆円企業に育てた柳井正社長兼会長は、公式には1949年生まれとされているので、来年70歳になります。ご本人は、70歳で社長職を譲り、会長職に専念することを現時点では予定されているようで、あと1年弱しかないのです。
実はファーストリテイリングには「専任社長」がいません。柳井会長が社長も兼務していて、十数年になります。企業は、リーダーによって業績が大きく左右されます。以前、2003年頃、柳井会長は、当時同社社員で、のちにローソン代表取締役会長となった玉塚元一氏を後継者に据えようと、社長に就任させましたが、3年ほどで解任となりました。その理由については、玉塚氏の指揮が、柳井会長が思い描いていた企業の成長像とは異なっていたからだといわれています。そこから柳井会長はずっと社長を兼務したままで今に至ります。果たして柳井会長のお眼鏡にかなう後継者は誰なのか注目が集まりますが、人選を誤るとファーストリテイリングは一挙に崩壊する可能性もあります。街からユニクロが急速に消えてゆく――なんて最悪の事態も、十分あり得るということです。
(南充浩)