ドラマレビュー

『おっさんずラブ』、ドラマ史に残る失恋シーンを演じた吉田鋼太郎の演技力

2018/05/28 21:00

おじさんの暴力性と愛嬌

 中年男性のパワハラ、セクハラ問題が昨年から世の中を騒がしているが、そもそも社会的立場の高い中年男性が、年下の部下に対して恋愛感情を持った場合、他部下と平等に接しようとすること自体が難しく、本人が気をつけても力関係は働いてしまうのかもしれない。愛情を向けようとしても、それ自体が暴力になりかねないことの悲哀。吉田はそんな黒澤部長の切ない姿を、コミカルかつ重厚な演技で表現している。

 吉田鋼太郎は現在59歳。故・蜷川幸雄の舞台の常連で、シェイクスピアやギリシア悲劇などの海外古典作品を得意とする舞台俳優として高い評価を受けていた。2010年代に入るとテレビドラマの出演が増え始め、『半沢直樹』(TBS系)などの作品で注目を集める。その人気が国民的なものとなったのは連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)だろう。

 これは『赤毛のアン』の翻訳で知られる村岡花子(吉高由里子)と、彼女の親友である葉山蓮子(仲間由紀恵)の友情を描いたドラマだ。吉田が演じたのは、蓮子が無理やり結婚させられてしまう九州の炭鉱王・嘉納伝助。物語上の役割は、蓮子を縛りつける悪役だが、話数が進むに連れて人気が急上昇し、一時は主役を食う勢いだった。

 脚本を担当した中園ミホが、伝助を好きすぎて筆が乗った面もあると思うが、ここまで人気を得たのは、吉田の奥深い芝居もあるだろう。権力者としての伝助の奥にある強者の孤独と、蓮子に拒絶されながらも心の奥底では慕っているピュアな姿が、多くの視聴者から共感を呼んだのではないだろうか。

 おじさんが隠し持つピュアな気持ちを演じさせたら吉田鋼太郎は天才的で、それは『おっさんずラブ』でも炸裂している。


 第4話。春田は部長の告白に対して「ごめんなさい」と返事をする。「駄目なのは俺が上司だから? それとも男だから?」という部長に対して春田は「理想の上司だと心から思ってます」と断った上で、それは「恋愛感情じゃない」と言い、「僕は部長とまた、純粋な上司と部下の関係に戻りたいんです」「こんな僕を好きになってくれてありがとうございました」と告げる。春田の気持ちを理解した部長は毅然とした態度に戻り、上司として去っていく。

 「なんで? なんで?」と泣きじゃくる部長の姿には、妙な愛嬌があり、「お前は恋する乙女か?」と突っ込みたくなるが、その姿がちゃんと切実なものに映るのは、緩急の激しい吉田鋼太郎の演技に絶妙なバランス感覚があるからだろう。ドラマ史に残る失恋場面である。
(成馬零一)

最終更新:2018/05/29 14:59
吉田鋼太郎 写真集
顔圧がさすが舞台俳優!