オンナ万引きGメンが見た、「万引き凶悪地帯」――特攻服の少年&ブラジル人との死闘
声をかけると同時にオラついた少年は、肩を揺らして私に迫ってきました。待機していた少年もバイクを降りて、万引きした少年の背後から人殺しのような眼で私を睨んでいます。少年たちの勢いに慄き、助けを求められるか周囲を見回してみると、数人の通行人が足を止めてくれていました。その皆さんに、私が置かれている状況を理解してもらうべく、大きな声で少年に問いかけます。
「ズボンに入れたガムとかジュースのお金、払ってないでしょう?」
「そんなの知らねえよ。触んなよ、このブス!」
振りほどこうとする少年にしがみつき、特攻服の袖を両手で大げさに引っ張ってみせると、状況をみていた体格の良い中年男性が「女の子相手に、なにをやっているんだ」と割って入ってきてくれました。男性の連れと思しき人は、警察に通報してくれているようです。
「なんだよ、おっさん。いいカッコしやがって」
見た目が強そうな中年男性の登場に怯んだ少年たちは、勢いを失くすも、逃げる姿勢は見せずに悪態をつき続けました。ところが、所轄署の刑事さんが到着すると、その態度を一変させます。
「また、お前らか。こないだ帰ってきたばかりなのに、何やってんだ」
案の定、地元で有名な不良少年だったらしい2人は、顔見知りの刑事さんを前に俯き、一言も発さなくなりました。つい先日まで、鑑別所にいたというので、現実に引き戻されてしまったようです。結局、2人とも逮捕となり、出張初日から残業する羽目になりました。このことは新聞にも載りましたが、周囲の助けがなければどうなっていたかわからないので、あまり喜べなかった記憶があります。
ブラジル人万引き犯に突き飛ばされて……
そうそう、初回の出張では多数の商品を万引きしたブラジル人の男に突き飛ばされて、救急搬送されるという受傷事故も経験しました。この時の相手は、身長180センチくらいに見える大柄なブラジル人でした。たくさんの商品をカートに載せて、お金を払わないまま外に出る「カゴヌケ」と呼ばれる手口で、お米やビールケース、牛肉、惣菜など、1万6,000円相当の商品を持ち出したのです。
外国人は基本的に逃げるので、それなりの心構えをしてから声をかけます。しかし、どんなに注意しても、大柄な男性に本気を出されれば、どうにもかないません。私が声をかけると同時に、男は商品を載せたカートを振り回して暴れ、執拗に上着をつかみ続ける私を突き飛ばして逃走しました。そのまま転倒して路面に後頭部を打ちつけたことで、裂傷を負い流血してしまいましたが、逃げられた悔しさや痛みよりも盗まれた商品のほとんどを取り返せた喜びの方が強かったです。