「受験校を勝手に決めた」母と「逆らわない」娘――不合格連発の中学受験で起きた“非常事態”
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
皆さんはどのくらい“運命”というものを感じることがあるだろう。私は中学受験の取材を長年続けているが、その経験者たちの話から、何か大いなる者によって与えられた“人生のギフト”の存在を感じることがたびたびある。それは、自身が絶好調の時だけではなく、むしろ“失敗”であるとか“後悔”といったような“負の感情”に覆われた時にこそ与えられ、「こういうことだったのか!」と、心にしみじみと感じ入るもののように思えてならない。
東京・神奈川の中学受験本番は2月1日の解禁日から始まり、1週間で決着がついてしまうものである。志望校に合格を果たした者から順に抜けていく世界なので、日程が下がるにつれ、その募集定員も減り、激戦度は上がっていく。つまり中学受験とは、不合格をもらうごとに、連戦で入試を受け続けなければいけないという試練を与えられるわけだが、当然ながら、受験しているのは12歳(または11歳)の子どもである。
周りが1人、2人と合格を決めていく中で、結果が出せない親子の落胆ぶりは想像を絶する。どの親子も、この本番のためだけに、何年もの間、受験勉強というものを相当ハードにやってきているからだ。
こういった背景があるということをご説明した上で、ある年の受験生親子に起こった最悪な出来事と、だからこそ得られた人生のギフトの話を綴ってみたい。
「私がこんなバカな世界に誘導してしまった」と自分を責める母
登場人物は美香ちゃん(12歳)とその母、律子さん(42歳)である。美香ちゃんは、大変賢い子で、塾のクラスも最上位。家族からも塾からも、トップ校合格を十分に期待されていた女の子であった。とても素直な子で、本人も周囲の期待に応え、本当によく努力をしていたという。
第一志望校受験本番の日も、体調は絶好調。偏差値的にも余裕があり、何の問題もなく“合格”すると誰もが確信していたのだが、どんな運命の悪戯なのか、結果はまさかの不合格。しかも悲劇は続き、2月1~4日まで連戦で挑んだ受験で4つの「×」をもらってしまった。美香ちゃんは「もう、受かり方がわからない!」と泣き喚いたそうだ。
母である律子さんも「神様っていない! 美香はこんなに頑張ってきたのに? なんで第一志望校だけでなく、全ての学校から受け入れてもらえないの?」と号泣。この時点で、私に連絡をくれ、こんな心中を吐露していた。