介護と不倫【後編】

介護のプロが語る、小室哲哉“不倫の是非”――「異性でなくてもよかった」との見解も

2018/01/31 21:00

「6年間、小室さんはよくやった」
脳卒中リハビリ病棟勤務の看護師・八木さんの場合

 八木美也子さん(仮名・50)は、訪問看護師、高齢者施設などの経験があり、今は脳卒中患者のリハビリ病棟に勤務している。看護師は、小室氏をどう見ているのだろうか。

――小室氏の引退会見をどのように見ましたか?

八木さん(以下、八木) 不倫報道にはまったく興味がなかったんですが、今回取材のためにインターネットなどで調べてみました。KEIKOさんが罹ったくも膜下出血は、脳卒中の中では重症で亡くなる人も多いんです。ネットなどで見た限りでは、KEIKOさんは体のマヒも残っていなくて動けているようだから、くも膜下出血にしては症状が軽い方かなと思いました。それでも、高次脳機能障害ということなので、それまでのKEIKOさんとは別人になっていると思います。基本的人格は変わらないとはいえ、そんな状態のKEIKOさんを小室さんは6年間も介護していたわけだから、偉い。よくやっていると思いますね。

――小室氏が介護に悩んでいたことを初めて知った人も多いようですが、世間の反応についてはどう感じましたか?

八木 坂上忍さんが「会見で、小室さんがKEIKOさんの病状を詳細に明かしたのは、どうかと思う」みたいなことを言ったらしいですが、そんなことを言うなよと思います。介護の大変さがわからない人は、何もわかっていない。小室さん自身、ものすごく疲れているんだと思います。高次脳機能障害の方の介護は、それは大変ですよ。ガンなんかだと人格は変わらないので、高次脳機能障害の介護に比べれば全然ラク。先も見えないんです。良くなる人もいるけれど、それも年単位の話。高次脳機能障害という病気自体、まず一般の人はまったく知らないので、そのつらさは想像もつかない。私も長く看護師をやっていますが、脳卒中のリハビリ病棟に来て、初めてわかったくらいなんです。


――どういう障害が出るんですか?

八木 脳の侵された部位によって、症状は全然違います。集中力が極端になくなって、例えば食事をしていても周りの人をキョロキョロ見たりして、同じことができない。身体能力はあるのに、トイレで一連の手順に従って動作をすることができないとか、服の上下、前後がわからない。人の顔を理解する部位が侵されると、顔も認識できなくなる。一見普通に見えても、さまざまな障害が出るんです。

――KEIKOさんもそういう状態であるかもしれない、と。

八木 おそらくKEIKOさんも1日1人で過ごすことができないのではないかと思います。常に誰かが介助しないといけない。それに、身体マヒがなさそうに見えるので、身体機能があまり衰えていないとすると、デイサービスも使えないでしょう。そもそも自分が病気だということもわかっていないかもしれない。とにかく、これまでの人格の部品が欠け落ちたような、まったく違う人になって、見ているのもつらいと思いますし、手もかかる。その点、インスタグラムを見ると、KEIKOさんは服もきちんと着ているし、メイクもしている。自分でできなくなっていると思われるので、小室さんがやってあげているとか、誰かにやってもらっているとしても、少なくともちゃんと気配りはしてあげているのでしょうね。だから、小室さんはよく頑張っていると思いますよ。

――よくやっていたのに、別の女性に目がいったというのは?


八木 すごく孤独だったんだと思う。介護がものすごく大変なのにもかかわらず、一般的な介護をしている人とも、そのつらさを分かち合えない。ただ、小室さんの場合、異性じゃなくてもよかったんじゃないでしょうか。話を聞いてくれる人なら誰でもよかった。たまたまそれが女性で、看護師だったということで。

――身近で介護不倫を見聞きしたことはありますか?

八木 介護する側ではなくて、介護される側の男性が、リハビリのつらさから、不倫相手に連絡を取ったという例はありましたね。で、それが奥さんにバレて離婚。不倫相手も、そういう状態の男性を押し付けられてもいいことないと思ったんでしょう。不倫関係ではないと主張していて。おそらく彼は不倫相手からも捨てられると思う。なんとも悲しい話ですよね。

――介護をめぐる不倫には、男女差ってあるでしょうか。

八木 女性はご主人の面倒をよく見ているケースが多いように感じますね。というのも、女性は友人とかにグチったりしてうまく発散できている。高齢の配偶者や親の介護をしていて、思い余って殺してしまう、などというのはだいたい男性ですよね。コミュニケーションがヘタだし、1人で抱え込もうとする。そのうえ、ほかの人にわかってもらえないとなると、孤独感が強いと思います。だから、小室さんも弱っているときに助けてくれる人がいて、うれしかったんじゃないでしょうか。

――会見で小室氏は、「(引退によって)どれほど生活水準が下がるのか計り知れない」などとも言っていました。介護離職についてどう思いますか?

八木 訪問看護をしているとき、仕事を辞めてしまう男性が結構いました。多いのが、母親と二人暮らしをしている50代の独身の一人息子というパターンですね。デイサービスとか、ショートステイなどといった利用できる介護制度のことをよく知らない男性が多いので、思いつめて、「お母さんの介護は自分がやる」と言って辞めてしまうんです。親を病院に連れていくなどで仕事を休むことが増えると、職場に居づらくなるというのもあるのでしょう。介護休暇が取得できる会社ばかりとは限りませんから。

 でも自分が辞めてしまったら、介護で引きこもり状態になってしまうし、収入が断たれるうえに退職金も年金も減ってしまう。介護はいつか終わるんです。お母さんのことよりも、自分のことを一番に考えていいんだよと言いたい。とにかく仕事は辞めてはいけません。自分が介護費用を稼いで、介護はプロに頼もうと強く言いたいです。

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 介護経験者や当事者、介護のプロの話はどれも考えさせられるものだった。小室氏の不倫報道に対する捉え方はさまざまだったが、人格の変わってしまった家族の介護は想像以上につらいということははっきりわかる。小室氏は、介護に論点をすり替えたわけでもないし、たまたま介護と不倫が重なっただけでもなかったということなのだろう、おそらく。当人にも本当のところはよくわからないのかもしれないが。

介護のプロでも高次脳機能障害について知る人は少ない。八木さんも、「高次脳機能障害についてあまりに知られていないので、何らかの機会にその介護の大変さについて訴えたかった」と言っていた。小室氏の会見が問題提起となったことは確かだ。これがきっかけで、高次脳機能障害について世間の理解が少しでも進んでいけばいいと思う。

 小室氏にも、KEIKO氏にも道が開けますように。

最終更新:2018/01/31 21:00
高次脳機能障害――医療現場から社会をみる
これがきっかけで孤独が少しでも解消されますように