仕事&男を捨てリスタート、『凪のお暇』が現代女性の“リセット後”の困難を描く
東京の片隅、立川に『聖☆おにいさん』(講談社)以来のマンガ的ビッグウェーブがやって来ようとしています。1巻が口コミでじわじわと話題になり、2巻は発売直後に完売&重版、「an・an」(マガジンハウス)マンガ大賞も獲得して、3巻は大部数で展開、遂には2018年のマンガ大賞にもノミネートされた、飛ぶ鳥を落とす勢いのそのマンガ作品の名は、コナリミサト先生の『凪のお暇』(秋田書店)です。舞台は立川のボロアパート。仕事でもプライベートでも空気を読みすぎていた自分が嫌になり、人生をリセットしたいと願った主人公・凪(28)は、会社もSNSも辞めて人間関係を断ち切り、この街で裸一貫やり直そうと決意したのでした。
節約が唯一の趣味だという凪の節約テクニックがふんだんに盛り込まれた本作は、それだけでも十二分に役に立つ実用エンタテインメント作品に仕上がっているのですが、なによりも秀逸なのはクズ男の描写であります。本作には2人のクズ男が登場し、いずれも完全な極悪人というわけでもなく、いかにもそこらへんにいそうな普通の男どもであり、だからこそ生々しくてドキドキしてしまうのです。
まず1人目は凪の元彼。勤め先では人当たりの良い営業部のエースとして全方位から人気を集める彼ですが、「抑圧支配型」とでも言いましょうか、凪に対して「ブス」だの「おまえは絶対変われない」だの、言葉によって呪いをかけて、逃げようとする凪をその場に押し止めようとするモラハラ糞野郎です。ところが実は心の底から凪のことが好きで、なんとかして関係を修復したいと願っているのですが、肝心なところで不器用なものだから、モラハラ的な物言いしかできないのでした。
2人目は新天地、立川のアパートで隣室に住むイベントオーガナイザー(怪しい……)の男。人との距離感が異常に近く、自由に楽しく生きていて、誰とでもすぐに親密な関係に持ち込める彼は、目の前にいる人にはそれなりに誠実なのですが、目の前からいなくなると途端にどうでもよくなるという、ややこしいやつ。一緒にいるととても楽しく、言ってほしい言葉も言ってくれる彼に、凪もうっかり接近してしまうのですが、自分の目が届かないところではどうしているのかさっぱりわからないものですから、途端に不安感に襲われてなにも手につかなくなってしまうのです。「メンヘラ製造機」という二つ名が言い得て妙で、近くにいるときの心地よさと、離れているときの不安感の落差がクセになって、凪も案の定、メンタルがヘラりつつあるのでした。
まさに前門の虎、後門の狼というやつです。このマンガの世界にはクズ男しかいないのでしょうか。コナリ先生、まさかこの2択なんですか!?