『渡鬼』女優・宇野なおみが“港区女子”に物申す! 自分の価値を「他人に委ねる」ことの怖さ
――『渡鬼』で演じられた野々下加津ちゃんも、向上心あふれる女性だったと思うのですが、宇野さんから見て加津ちゃんはどんな女の子ですか?
宇野 加津ちゃんと私を同一視している方も結構いて、「東大生なのよね」とか「親いないのね」とか言われることもよくありますし、私自身も自分の一部みたいな感じなので、どう思うかと言われるとちょっと困るのですが(笑)、人としてすごい子だなっていう尊敬はずっとありましたね。ためらいない飛び込みで自分の才能を開花させていくところとか、「人と違っても何とかなる」という思いは、加津ちゃんから学んだと思います。
――演じたことで影響を受けたところなどはありましたか?
宇野 あります、あります! 加津ちゃんは私よりデキる子ですから(笑)。一番は、あきらめないことです。加津ちゃんの立場は非常に複雑で、コンプレックスもあったと思うのですが、彼女はそんなバックボーンを跳び箱の踏切板にしていたんですよね。私は高校を中退し、大検で早稲田大学に入りましたが、それは普通に生きていたら思いつかなかったルートだったので、「自分で切り開けば道は常にある」という加津ちゃんの考え方が強く影響していたんだと思います。
あと、私は昔からゴールキーパーにはなれないタイプで、人と人を紹介したら自分が入り込めないほど2人が仲良くなってしまったり、自分が出会いを探しに行った場で、友達にだけ恋人ができたりと、「誰かの1番」にはなれないパサーであることがコンプレックスでした。でも、人の言葉を、自分を介して伝えていく通訳や役者は、パサーじゃないと務まらない。コンプレックスを強みに変えることができたからこそ就けた仕事だと感じています。
――ちなみに、加津ちゃんを演じてきた中で、一番印象に残っているシーンはどこですか?
宇野 1つは、一人芝居をしながら階段を下りていくシーン。「ごはんまだかなぁ。『腹減った、早くメシ!』なんて言える身分になってみたいよ」という一人芝居の様子に、いつもは強い女の子の本音が出ているような気がしました。もう1つは、母親との再会のシーンですね。決して恨み節を投げつけず、母親にも事情があったことを慮ったセリフしかないんですよ。でもそれは、先に泣き出した母を見て、「お母さんは強くない人だ」ということを受け入れられたから、手を差し伸べることができたんだろうなって。人より不幸値の最大値が大きいからこそ、懐が深いというか。加津ちゃんの強さと優しさを感じられたシーンでした。
――今後チャレンジしてみたいジャンルなどはありますか?
宇野 文章を書く仕事をしてみたいです。文章を書くのが好きというのも、橋田寿賀子先生や加津ちゃんから覚えたことですね。これまでも『渡鬼』のホームページで連載したり、ブログを続けたりしてきましたが、自分の不器用な生き方が誰かの役に立つようなことも書いてみたいです。私のように、ずっと人と違って生きてきて、それを「ま、いっか!」と思いながら過ごせている人は今の日本ではレアなので、「私みたいなのもいるんだよ!」というのを知ってもらえれば、自信を持ってもらえるんじゃないかなって。高校を中退した人とか、コンプレックスを抱えている人とか、同じような境遇の人の心に伝わったらいいなと思います。
――最後に、今後の目標を教えてください!
宇野 赤木春恵さんが88歳で認定されたギネス記録「世界最高齢での映画初主演女優」を目指したいと思っています。本当に素晴らしいことだと思うので、できることなら、私もそういう女優になりたいですね。
(取材・文=千葉こころ)
宇野なおみ(うの・なおみ)
1989年生まれ、早稲田大学文化構想学部卒業。96年、『マダム・バタフライ』で初舞台を踏み、98年から『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)に野々下加津役としてレギュラー出演。大学卒業後、カナダ・バンクーバーのカレッジに留学し、「TOEIC」のスコアは990点満点中、910点という語学力を得る。現在は女優以外にも、通訳として活躍している。