日本摂食障害協会副理事長・鈴木裕也医師インタビュー

「高学歴女子は患者数65倍」「ダイエットとは別物」専門医師が語る、摂食障害の原因

2017/11/09 15:00

患者本人はダイエットだと思っているが、別の理由がある

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鈴木医師が診察した患者

――時折、摂食障害を扱った番組が放送されていますが、「ダイエットをきっかけに、気づいたら摂食障害になっていた」という内容のものが多い印象です。これは誤った情報だということでしょうか?

鈴木 患者さん本人はダイエットだと思っていますが、実はダイエットではありません。本人がダイエットだと思っている奥には別の原因があります。人間は、だいたい15歳くらいで、50キロ前後の大人の体になります。でも、馬は4~5年で体重が400kg前後の大人になります。なぜ馬は5年で大人になるのに、人間は15年かかるのでしょう? 動物の脳を、コンピュータにたとえるとわかります。馬の脳はそんなに複雑な構造をしていないので5年で出来上がってしまいますが、人間の脳はレベルが高く、ソフトもたくさん入れなければなりません。

 ようやくコンピュータが出来上がり、「さあ、一人前の大人として社会に出よう」となると、越えなければいけない、さまざまな人生のハードルにぶつかります。そのようなとき、普通ならばソフトをバージョンアップして、乗り越えていきます。しかし、どうしても乗り越えられない場合、グレたり横道にそれたりするという方法もありますが、偏差値の高い高校の真面目な子たちは、横道にそれるわけにもいかない。そこで「このコンピュータではダメだから、いったん戻る」という選択肢を取ります。体重を思春期前、10歳くらいの数字まで減らし、生理も止めて、「大人ではない準備中の体」で安心感を得るのです。これが拒食症の本質です。従って、拒食症の患者さんは、自己評価が低く、常に相手の機嫌を損ねないよう、争いが起きないように生活をしています。摂食障害を患った患者さん本人は、このことに気づいていないので「ダイエットしていたら、こんなふうになっちゃって、この体重から1キロでも増えると怖い」と言います。

 患者さんたちは、体重が落ちたときは元気なんです。体重が増えて大人の体に近づくと、ビクビクしちゃう。骨と皮のような体でゴルフを楽しんでいる芸能人の写真が週刊誌に載ったことがありましたが、あれも痩せた体だから元気だったんです。

――でも、そこまで痩せてしまうと体力が落ちて、ゴルフのようなスポーツはできないのではないかと普通は思いますが……。


鈴木 人間などの哺乳類は、飢えに強いんです。飢えたオオカミはアドレナリンがガンガン出て攻撃力が増し、獲物を捕まえて食べて命をつなごうとする、最後の力が出るんです。人間もそれと同じで、摂食障害で痩せていても気持ちが安定していれば、むしろ通常の人よりも過活動になります。

――今年の8月、マラソン元日本代表の原裕美子さんが万引で逮捕された背景には摂食障害があったという報道を見ました。摂食障害と万引の関係性を教えてください。

鈴木 私の患者さんでも、下剤を万引する人がいました。体重を落とすために下剤を飲むのですが、毎日100錠というとんでもない量なのでお金がかかります。もちろん、体にも負担はかかりますが、そこまでしてでも体重を維持しないと怖いと、みんな言います。

――単純に、お金がもったいなくて盗むんですか?

鈴木 違います。人間の脳にはもともと、怒りっぽい人格や泣き虫な人格、そのほか、いろんな人格が混在しています。それらを取りまとめている総監督が「自分」です。ところが、「自分自身」にいろんな悩みごとがあると、ほかの人格のコントロールが利かなくなり、あるひとつの人格が勝手に突出して、その人格が万引や暴力といった問題行動を起こしてしまうのです。


 万引した患者さんに聞くと「盗むつもりはなかったのに、いつの間にか商品を盗んでいて、『まずい!』と気づいたときには店員さんに『もしもし』と声をかけられてしまった。ただ、声をかけられたときはもう、万引をした人格は引っ込んでしまっていて、『自分』が謝り、責任をとらされることになってしまう」などと言います。

拒食、過食のながいトンネルをぬけて