サイゾーウーマン芸能テレビドラマレビュー竹野内豊、脱トレンディ俳優の道 芸能 [ドラマで気になるアノ男] 『この声をきみに』竹野内豊から考える、トレンディ俳優からおじさん俳優への移行 2017/10/16 21:00 ドラマレビュー男性タレント NHK『この声をきみに』公式サイトより 10月クールの新作ドラマが始まりつつある中、一足先に始まったNHK金曜午後10時放送の『この声をきみに』が面白い。 本作は、離婚間近でどん底にいる大学の准教授・穂波孝(竹野内豊)が、朗読教室と出会ったことで自分の内面と向き合っていくドラマだ。幼少期の頃から、心の中にある“ぽっかり”と空いた心の隙間を自覚していた穂波は、数学理論に没頭することで人生をやりすごしてきた。やがて穂波は結婚し、数学の准教授として社会に適応していたが、いつの間にか妻の奈緒(ミムラ)と不仲になり、別居することとなる。仕事もうまくいかず、八方塞がりの日々を過ごしていた穂波は、ふとした偶然から朗読教室に参加する。 脚本は大森美香。2000年代に『ランチの女王』や『不機嫌なジーン』(ともにフジテレビ系)を担当し、15~16年にはNHK連続テレビ小説『あさが来た』を手掛けた、コミカルな会話劇を得意とする脚本家だ。長瀬智也演じるヤクザの青年が、高校生活を体験することで青春を取り戻す姿を描いた『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日本テレビ系)を筆頭に、主人公が自分の知らない学問の世界に触れて成長していく姿を、大森は形を変えて何度も描いている。 『この声をきみに』の穂波は、偏屈で人の気持ちがわからない中年男性。そんな彼が、子ども向けの童話の世界を知ることで成長していく。朗読や数学理論といったモチーフに目が行きがちだが、根底にあるのは人間が生きていく上で衣食住のほかに何が必要か? という問題だ。そのテーマを、さえない中年男性の自分探しを通じて描いている。 トレンド時代はハマらなかった「情けなさ」 主演を務める竹野内は、人の心がわからない中年男性を見事に演じ、全体的にコミカルな物語でありつつも、妻との離婚調停の場面はとても生々しい。離婚の決定打となった、家事で疲弊している妻に対して穂波が「君のヒステリーみたいなところ、もう少し何とかならないのか」と言う場面は、竹野内の美声でさりげなく言うからこそ無神経さが際立っていて、男の立場から見ていても、胃が痛くなる場面だ。 本作で久々に竹野内を見たという人は、こんな野暮ったい俳優だった? と、驚くかもしれない。竹野内の知名度が高まったのは、1996年の『ロングバケーション』(フジテレビ系)だろう。木村拓哉と山口智子が共演した伝説的な恋愛ドラマで、りょう、松たか子、広末涼子といった女優の出世作としても知られている。竹野内は主人公のライバル的存在の、女にだらしないカッコいい青年を演じていた。 『ロングバケーション』以降は『星の金貨』(日本テレビ系、95年)や『ビーチボーイズ』(フジテレビ系、97年)といったドラマに出演、人気を不動のものとし、メールでの恋愛を描いた『WITH LOVE』(フジテレビ系、98年)からは主演作も増えていった。当時の竹野内はイケメン俳優の走りのような存在で、二番手三番手のカッコイイ役を演じさせると魅力的だった。しかし、同98年の『世紀末の詩』(日本テレビ系)で演じた、イメージと真逆の情けない青年は、あまりうまくいかずに悪い意味で空回りしていた。思うに、その空回りは外見のカッコ良さが、本人のやろうとしている情けない演技の邪魔をしていたからだろう。 その後も竹野内は順調にキャリアを積み重ねていき、09年の刑事ドラマ『BOSS』(フジテレビ系)あたりからはコミカルな役が増えていく。大きく変わったのは、バカリズム脚本のドラマ『素敵な選TAXI』(フジテレビ系、14年)だ。時間を行き来できるタクシーに乗ることで、過去を変えようとする人々の姿を描いた本作で、竹野内は謎のタクシーの運転手を演じた。髭を生やしたタクシー運転手としてのたたずまいは、高田純次や稲川淳二のようで、こんなコミカルな演技もできるのかと驚いた。 『ビーチボーイズ』で相棒だった反町隆史が、今も90年代と変わらない俳優イメージなのに対し、近年の竹野内は出演作ごとに印象を変えていき、情けない役も演じるようになってきている。元々、竹野内は演技がオーバーアクションのためか、台詞の多い主演級の役を演じると滑稽さが際立つという特徴もあった。 『世紀末の詩』では、違和感が生じていた情けない男役だが、現在の『この声を君に』の竹野内は、いい意味で枯れつつあり、情けなさに説得力が生まれようとしている。 今後は共演している柴田恭兵のような、昔カッコよかった面白いおじさん俳優として定着していくのではないかと思う。役の上ではミドルエイジ・クライシス真っ只中で、必死にあがいているが、俳優としては、スムーズに次のステージに移行できそうだ。 (成馬零一) 最終更新:2017/10/16 21:00 Amazon ニシノユキヒコの恋と冒険 こうして竹野内もカルチャー臭くなるのか 関連記事 『僕たちがやりました』窪田正孝、思春期の高校生役を好演も気になったこと『ケイゾク』から『警視庁いきもの係』へ、渡部篤郎に覚える「どうしてこうなった?」感竹内涼真『過保護のカホコ』、“朝ドラ・シンデレラボーイ”が俳優としてブレークした理由志尊淳の「寝顔」が、酒井若菜&緒川たまきの熱演を食った『下北沢ダイハード』『ハロー張りネズミ』、熱くなりすぎずオシャレになりすぎない“程よい熱”の俳優・瑛太 次の記事 NEWS・小山、希望の党と握手写真出回る >