ライター・杉山春氏×精神科医・松本俊彦氏対談(後編)

「自死の原因はひとつではない」死にたいと相談されたときにやるべきこと

2017/10/14 15:00

自死を善悪で語ってはいけない

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ライターの杉山春氏

――生活保護バッシングもそうですが、倫理的に良くないとされること、例えば芸能人の不倫についても、異常なくらいバッシングされますよね。

杉山 「正しさ」というのは危険な思想なのではないかと、この本を書きながら思いました。「これが正しい」という規範がすごく強くなってくると、人を切り刻む幅が狭くなってくる気がして。

 自死者のご遺族にお話を聞くと、混乱期には、社会では許されない殺意や激しい怒りなどの感情をお感じになっていることがわかりました。でも、「そういう感情がちょっとでも表に見えたら、世間に抹消される」という恐怖心も持たれるようで、「そんなことを思ってはいけません」とか「あなたがちゃんとしなきゃいけません」などと、疲れているときに、他人から善悪の判断で言われると、すごくつらいみたいです。

松本 善悪で語らないというのは、自死遺族の支援だけでなく、自殺しようか悩んで苦しんでいる人にも、そのまま当てはまります。彼らは、自殺に関して善悪の価値判断で言う援助者(医師などの専門家に限らず周囲で支えてくれる人)に遭遇すると、何も言えなくなってしまうので、援助自体から離れていってしまう。むしろ自殺予防に必要なのは、安心して「死にたい」と言える場所です。それを言われて「いや、死んではいけない」と答えるのではなく「そっかぁ」と言ってくれる人が必要ということもあります。

 もちろん、法律の問題があるのかもしれないけど、もうちょっといろんな価値観が認められる社会にしていかないと、自殺予防もご遺族の心の回復も、うまくいかない気がするんですよね。


杉山 「死にたい」と言われたら、私たちはドキドキしちゃいますもんね。「この人、もしかして自殺を考えている?」と思ったとき、なかなか聞けないですよね……。

松本 僕自身も駆け出しの頃は、聞けないことがありました。でも、聞きそびれたために自殺されてしまったこともあります。もし、そのときに聞いて相手が「実は……」と言ってくれたら、本人が抱えている困難は解決できなくても、次の外来に生きてやって来た可能性があると思うんです。解決困難なしんどい状況にある中、「あなたはよく頑張って戦っているね」と承認し、その戦いざまを見届ける、いわば「証人」の役割を買って出てくれる人の存在は、決して無意味ではないと思っています。

杉山 もしかすると、そのような承認する相手は医師でなくてもいいかもしれません。

自死は,向き合える――遺族を支える,社会で防ぐ (岩波ブックレット)