サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー女の戦いはなぜ醜いほど興奮する? カルチャー [官能小説レビュー] 高級クラブで繰り広げられる女同士の戦いは、なぜ醜くければ醜いほど興奮するのか? 2017/06/05 19:00 官能小説レビュー 『濡れ蜜アフター』(二見書房) “女の戦い”をテーマにした小説は、その内容が醜ければ醜いほど、面白いのかもしれない。相手に対して、ライバル心とともに、“尊敬”の気持ちを持ち、正々堂々と勝負をする爽やかな物語も、人々の感動を呼ぶだろうが、どうやって相手を蹴落そうか、どうすれば相手より勝ることができるのかと、決して自分の本心は表に出さずに、虎視眈々と計画を練る女たちの駆け引きは、非常に面白い。傍観者としては、笑顔の裏で何を考えているのかわからない女に、興味を引かれるものだ。 女の戦いが繰り広げられている作品の舞台といえば、高級クラブである。一流ホステス同士の戦いというテーマは、テレビドラマや漫画などあらゆる作品で使われているが、今回ご紹介する『濡れ蜜アフター』(二見書房)は、作者自身が長年ホステスをしてきたため、非常にリアリティのあるシーンが多く盛り込まれている。 舞台は六本木にある人気クラブ。元アイドルだったママが経営するクラブ「ヴァッカス」では、毎晩きらびやかで美しい女性たちが、客の心を癒やしている。 主人公の沙雪は、夜の仕事が初めてのため、テーブルについてもドジばかり。人気ナンバーワンの薫に、入店2日目でこっぴどく怒られ、5歳年下の現役女子大生ホステスのエマには、おいしいところを持って行かれる始末だ。 最初は、客のエッチなイタズラにも困った顔をして応じるだけであった沙雪だが、先輩がどのように接客しているのかを観察、分析することで、ホステスとして着実にステップアップしていく。 ホステスたちの仕事は店内だけに留まらない。毎日の営業電話、同伴やアフターなどに行くこともあれば、時に客と寝ることもある。この“寝る”タイミングを計るのも、一流ホステスの大事な仕事の一部なのだ。早すぎては客が満足して逃げられてしまうし、遅すぎてもしびれを切らして逃げられてしまう。 もちろん顧客の情報を把握しておくのもホステスとして大事な要素である。薫は、客一人ひとりの情報を丁寧にメモした手帳を持っているそうだ。 そんな話を、薫の上客である橋本とのアフター先で聞いていた沙雪だったが、そのまま酔いつぶれ、橋本のセカンドハウスで目を覚ます。そして、そこへ現れた店のママとともに、沙雪は橋本に抱かれてしまうのだった。 ある日、沙雪はママからとある提案をされる。薫は、水面下で独立を企てており、それを阻止するために、例の顧客情報が詰まっている手帳の情報を盗んでくれ、というのだ—―。 客からホステスへのセクハラまがいの官能シーンもあるが、それ以上に、沙雪が身ひとつでホステスとして上り詰めてゆく様子は、読んでいて爽快である。入店したての頃は、あどけなくオドオドしていた沙雪だが、5年の月日を経て、薫を蹴落そうとまで考えるほどにしたたかに成長するのだ。 美しい夜の蝶たちが、相手を蹴落とすために盗聴や盗み撮りをしたりと醜い姿を晒し、「アンタ」「チキショウ!」などと汚い言葉を撒き散らしながら戦う姿は圧巻である。そんなふうに楽しめる理由は、自分自身が決してその世界へ足を踏み入れることができないから、そして、我々は日々、自らの醜さが表に出てしまわないよう取り繕うことに、ストレスを感じているからだろう。 そんな女たちが裸一貫で戦う“ファンタジー”に、私たち同性はそそられるような気がするのだ。 (いしいのりえ) 最終更新:2017/06/05 19:00 Amazon 濡れ蜜アフター (二見文庫) 『極妻』での岩下志麻とかたせ梨乃の取っ組み合いなんて最高だもん 関連記事 同性愛はファンタジーではない――レズビアンカップルの老後を描いた「燦雨」同性愛や売春も……250年前の官能小説『ファニー・ヒル』に見る、セックスへのたくましい想像力“痛み”でエクスタシーと生を覚える年代――今あらためて『蛇にピアス』を読むことの意味兄妹の禁断の関係――無人島を舞台に繰り広げられる『瓶詰地獄』の官能ポイント美しすぎる少女が、初めて異性に体を差し出す瞬間――その「痛々しさ」と「神々しさ」 次の記事 『DASH』茂のダジャレが潰された >