カルチャー
『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』ブックレビュー

「善意」と「弱者意識」により嘘は広まり、勢いを増す――偽ニュースが生まれる理由

2017/04/11 15:00

 偽ニュースが出回る背景を、発信者側の都合から触れてきたが、偽ニュースはそれだけでなく、情報を信じ広める人がいて成立し、拡大する。「肩こりの原因は霊」程度なら信じる人も少ないだろうが、これが政治や事件と絡んだり、災害時であれば、話はまったく変わってくる。

 足立区女子高生コンクリート詰め殺人事件で、犯行グループの一人だという根拠のない偽情報がネットで広まり、誹謗中傷に苦しみ続けたスマイリーキクチ氏の事例も紹介されているが、「悪意や目的のある人」と「偽ニュースを真に受けて、調べもせずSNSで拡散するようなネットリテラシーのない人」さえいれば、第二、第三のスマイリーキクチ氏が生まれる可能性もあるし、選挙の対立候補の偽情報を流すことで選挙結果に影響を与えることだってできるだろう。災害時なら、偽の情報に振り回され、人が負傷したり、亡くなる可能性だってある。

 厄介なのが、偽ニュースを広める人の根底にあるのが「悪意、悪ふざけ」でなく「義侠心や善意」であるケースも多いことだ。東日本大震災のときも、善意から偽の災害情報をSNSで拡散している人がいたが、これらの人たちはきちんと「みっともないことをした」と反省しているのだろうか? 偽ニュースを発信する人が最も悪いが、それを鵜呑みにして広めた人がまったくの無辜とは思えない。しかし、裏も取らずに情報を拡散することはみっともないことだという意識が育たないくらい、膨大な量の情報が毎日通り過ぎていってしまう。このあたりも、偽ニュースを故意に流そうとするには有利な構造なのだろう。

 偽ニュースの発信元に罰則を与えるという規制以外に、受け手への教育も必要だ。ネットニュースはここ10年どころか、5年で急拡大した市場だ。今の子どもはネット環境に囲まれて育ったネットネイティブであり、学校の情報教育の授業で情報モラルを学ぶ機会もある。一方で、疑うことを知らない大人を教育する場はどこにもないと思うと、なかなか恐ろしい一冊だった。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
いとしろ堂

最終更新:2017/04/11 21:47
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