映画『太陽の下で―真実の北朝鮮―』ヴィタリー・マンスキー監督インタビュー

「日本が北朝鮮のような独裁国家になるかもしれない」映画『太陽の下で』の監督が語る未来

2017/01/16 17:00

■北朝鮮と日本、いつ立場がひっくり返るかわからない未来

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――日本人は拉致問題が解決していないこともあって、北朝鮮に対してあまりいい印象を持たない人も多いと思うのですが、この映画が日本公開されるにあたり、日本の観客に向けたメッセージなどはありますか?

マンスキー監督 私はこの映画で北朝鮮を宣伝するつもりは全くありません。日本の方たちには、近い国である北朝鮮の人たちが、どんな生活を送っているのかを知ってほしいのです。もうひとつ、この映画で伝えたいこと、それは北朝鮮の人たちが手に入れていないフリーダム、自由についてです。自由というのはスミレの花のように小さなものです。水を与えないとしおれてしまうし、太陽を浴び過ぎると枯れてしまいます。とても繊細なのです。

 いいですか、自由というのは自然に発生するものではありません。今、あなたたちが生きている日本の自由は決して安全なものではなく、いつ失うかわからないのです。自由は国民みんなで獲得するもので、それらを絶えず意識し、思考していかないと、あなたの指の隙間からこぼれて消えていきます。あなたたちは、この映画が抱える問題点を自分たちの問題として考えてみてほしい。これは心からの願いです。


――今、日本は北朝鮮と比べたらとても自由ですが、それが危ぶまれているような意識はあります。少し怖くなってきました。

マンスキー監督 あともうひとつ言いたいことがあります。この先、どんな未来が待っているかは誰もわかりません。しかし、ソ連時代、第二次世界大戦でナチを追い払い、多くの犠牲を出して、ヨーロッパを解放しましたが、ヨーロッパは再びスターリンの独裁体制に入ってしまいました。このように北朝鮮と日本も、いつひっくり返るかわからないのです。独裁体制になる可能性だって捨てきれないのですよ。みなさん一人ひとりの意識にかかっています。安泰に暮らしている場合ではないのです。

■北朝鮮の女性たちは自由からくる美しさを失ってしまっている

――北朝鮮の女性たちは、報道で見る限り、美しい人たちをそろえている印象がありますが、実際に街行く女性たちに対して、監督はどういう印象を持たれましたか? 

マンスキー監督 美とはなんだと思いますか? 造形的にきれいに整った顔のことでしょうか? 違いますよね。美とは思考する眼差しだったり、緊張感から解けたときの穏やかな顔だったり、そういう顔が美しさであると私は考えます。その美しさはどこからくるかといえば、自由です。形として整っていても、北朝鮮の女性の美に自由はありませんでした。だから私の感覚では美しい人と感じることはなかったですね。


――北朝鮮の人々は、それでも幸福であり、不幸ではないのですよね。

マンスキー監督 ええ、不幸だと感じてはいません。例えば、ある日、エコに目覚めた人が、毛皮のために飼育していた動物を檻から出して野生に戻したそうです。しかし、数日後に動物たちは檻に帰ってきた。なぜだと思います? 食べていけないからです。生まれてからずっと檻の中にいて、食べ物を与えられてきたから、解放されても、どうしたらいいのかわからないのですよ。先日は脱北者が韓国へ渡ったけど、結局、また北朝鮮に戻ってきたという話を聞きました。理由は同じですね。

――監督はこの映画でたくさん語りたいことがあるように思いましたが、映画の中ではご自身の主張をあまり前面に押し出していませんね。

マンスキー監督 私は自分の映画を見てくださる観客の皆さんを尊敬しています。この映画の演出で、見ている皆さんに対して「教える」ということはしません。映画を見て、自分自身で結論を導いてほしいからです。描かれている世界を受け取り、それについて考えて心を豊かにしていく。この映画は映画館向きです。大きなスクリーンで、あなた自身も北朝鮮に入り込んだように感じながら見てほしいですね。
(斎藤香)

ヴィタリー・マンスキー監督
ロシアのドキュメンタリー監督。モスクワ・ドキュメンタリー映画祭会長。『青春クロニクル』『ワイルド・ワイルド・ビーチ』『祖国か死か』などの作品がある。

『太陽の下で―真実の北朝鮮―』
2017年1月21日、新宿シネマートほか全国ロードショー
公式サイト

最終更新:2017/01/16 17:00
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