[連載]海外ドラマの向こうガワ

優雅なメイドを主人公に、「ヒスパニック女性=低賃金労働者」の偏見を打破した『デビアスなメイドたち』

2017/01/29 19:00
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『デビアスなメイドたち シーズン1 コンパクト BOX』

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが、新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!

 不法移民の流入を防ぐため、メキシコとの国境に壁を建設することを公約に掲げていたドナルド・トランプが、第45代アメリカ合衆国大統領となった。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(偉大なるアメリカを取り戻す)」というスローガンを掲げている彼は「史上最も多くの雇用を生み出す大統領になる」と宣言し、白人労働階級層から絶大なる支持を集めたと伝えられている。

 ドナルドが支持された理由の1つは、「不法移民たちが、建設現場や家庭内労働などのブルーカラーの仕事を低賃金で請け負うため、同職のアメリカ人に仕事が回ってこなくなった。回ってきたとしても賃金を不法移民と同じくらいまで下げられ、その結果、貧困にあえぐようになった」と国民が感じているから。

 しかし、その一方で、アメリカに住むヒスパニックたちは、いつまでたっても世間から「ヒスパニック=低賃金で働く不法移民」という目で見られることにうんざりしている。「ヒスパニック女性の代表的な仕事=メイドなどの家庭内労働」というイメージを持たれることにも辟易しており、「人種や性別で職業を決めていた、悪しき奴隷制の伝統を引きずっている」と批判する声も上がっているのだ。

 2002年、ヒスパニック系のベテラン女優ルーペ・オンティヴェロスが、大手紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューで「役者の仕事をして25年。でも演じるのはメイドばかり。私はメイドの役を少なく見積もっても150回演じてきた」「メキシコからの移民の中には成功し、アメリカ社会に貢献している者が少なくない。でも世間は、ヒスパニックの女を見たら、メイドとしか思えないの。だから私がオーディションで完璧な英語を話すと、仕事がもらえない。なまりがないと、メイドにはふさわしくないから」と発言。ハリウッドはヒスパニックを差別していると問題提起したことがあった。


 ルーペの両親はメキシコからの移民だが、レストラン2店舗とトルティーヤ工場を経営する実業家である。聡明な彼女は大学を卒業しており、学歴もある。中流階級の白人に引けを取らない育ちであるのに、「ヒスパニックだから」与えられるのはメイドの役ばかりだったというのだ。

 ルーペのように、ハリウッドにおけるヒスパニックの扱いについて不満を持つ者は、実に多い。そんなハリウッドで、幸運にも「メイド以外の役」で大スターとなった女優がいる。『デスパレートな妻たち』で元モデルの専業主婦を演じていたエヴァ・ロンゴリアだ。そのエヴァが13年、「世間が思っているよりメイドという仕事には深みがあるのだと伝えることにより、ヒスパニック=メイド、という既成概念を崩す」と目標に掲げて制作した新作ドラマが放送開始された。ビバリーヒルズの豪邸で働くヒスパニックのメイドたちが主人公の、愛憎渦巻く『デビアスなメイドたち』である。

 ビバリーヒルズの豪邸に住む裕福なパウエル家で、ヒスパニック系のメイド、フローラが殺害されるという事件が発生。パウエル家で働く青年に容疑がかけられる。近隣の邸宅で働く好奇心旺盛でゴシップ好きなヒスパニック系メイドたちは、フローラの殺人事件に興味津々。そんな彼女たちも、また、それぞれが夢や野望、忘れ去りたい過去を持っており、雇用主のスキャンダルに巻き込まれる者もいる。果たしてメイドである彼女たちは、自由の国・アメリカで夢をつかむことができるのか?

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