映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

既婚/独身、専業主婦/仕事女の分断と希望を描く『グッドナイトムーン』

2016/12/31 16:00

■「母親失格」で見つけた子どもとの関係
 イザベル(ジュリア・ロバーツ)は、広告業界で活躍するニューヨークの売れっ子カメラマン。かなり年上の弁護士で恋人のルーク(エド・ハリス)と一緒に暮らし始めたばかりだ。ルークは3年前に妻ジャッキー(スーザン・サランドン)と別居後、離婚しており、2人の子どもは週の半分を父のアパートメント、残りの半分を郊外にある母の本宅で過ごしている。

 イザベルの悩みは、その子どもたちだ。頑張って世話をしようとしても、12歳の姉アンナは反抗的だし、就学前の弟ベンは悪戯盛り。見かねたルークに「君に子どもの世話は頼めない」と言われて反発するが、努力は空回りするばかり。

 特に、アンナとはまったく反りが合わず苦労する。思春期の彼女の目に、恋人に夢中な父ルークと自分がどのように映っているか、その複雑な内心を慮るところまでは、イザベルの想像力は働かないのだ。

 ロケの現場に子ども2人を連れていった時、目を離したすきにベンがいなくなり、大騒動となる。警察に保護された息子のところに飛んできたジャッキーに謝るものの、キツい言葉で保護者失格との烙印を押され、自信喪失。

 あるいは、子どもの迎えに行くはずだったジャッキーに替わって、急遽仕事を切り上げ学校に直行し、母の来られない理由を必死でデッチ上げているところに、遅れてきたジャッキーがサッサと子どもたちを連れ帰る。


 自分は努力しているのだ。仕事より子どものことを優先している。ジャッキーを悪者にせず、子どもたちを傷つけないように気を使っている。それでも、やっぱり「母には敵わない」という事実を何度も突きつけられる時、イザベルの心は折れそうになる。仕事なら努力すれば何とかなるが、ママにはどう頑張ってもなれない。

 それからイザベルがしたことは、母というより先輩女性として振る舞うことだった。絵がうまくいかなくて悩んでいたアンナに的確なアドバイスをして信頼を取りつけ、ドライブ中、口紅を貸してやり、CDに合わせてコーラスするほどには打ち解ける。アンナの恋の始末のつけ方にも、あまり教育的ではないが、イザベルにしかできないような独特の助力をする。

 母にはなれなくても、自分にできることをやればいいとわかってからのイザベルと、徐々に警戒を解き、「父の恋人」ではなく話せるお姉さんとして彼女を受け入れていくアンナの関係は、ちょっと危なっかしいだけに見ていて応援したくなる。

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