「日本が一番だと思っていたけれど、実はそうでもない」日本を脱出し、タイでデザイン会社を経営する女性
■日本が一番だと思っていたけれど、実はそうでもない
金野さんが住むのは、オフィスから2キロほど離れた下町にあるマンションだ。近くには市場があり、朝から晩まで庶民の活気であふれる。大きなリビングとベッドルーム、キッチンがあり、50平米で家賃は1万3,000バーツ(約4万2,000円)。
「引っ越してきたばかりで、まずは近所の屋台の位置を把握することから始めてます」
タイでは、テレビや冷蔵庫、ベッドやエアコン、ソファなど、家具はすべて備え付け、敷金・礼金はなく、日本人ならパスポートひとつで契約できるので、引っ越しが簡単だ。家賃2~3カ月分のデポジットは前払いだが、これも退去時に返却される。居住者専用プールのほか、掃除や洗濯をしてくれるお手伝いさん、警備員が常駐する、リーズナブルな物件も多い。そんな住環境の良さも、日本人にはありがたい。
「日本が一番だと思っていたけれど、実はそうでもないということを実感しています。日本にいるとわからないことを、こちらで勉強しています」
日々、重い荷に苦しむこともなく暮らしているからか、「タイにいる日本人は、みんな年より若く見える気がします。見た目と年齢が合わない(笑)」と金野さんは言う。たまに日本に帰国すると、知人たちの、特に30~40代の男性の老け方に驚くという。生活の疲れがにじむ。
「やはり日本人は、考えすぎなんだと思います。タイ人は何か問題が起きたときも、サヌック(楽しむ)の精神で当たっていく。それを学べたことは大きいと思います」
タイの居心地のよさの中で過ごす金野さんだが、この先の人生は、まだ未定。「あまり考えないようにしてます」という。「会社として、自分として、やりたいことを突き詰めていけたら。ここにいるかもしれないし、ほかの国にチャレンジするかもしれない。日本に帰るかもしれないけど、寒いし、重いしな~」そんなことを、笑いながら話してくれた。
選択の多様さと、生きやすさ。タイ生活は、人生にこの2つを与えてくれたと語る女性は多い。もちろん、いいことばかりではない。異国での暮らしは、ときに困難で、厳しい。それでも、新しい価値観や、違う生き方を求めるなら、アジアに飛び出してみるのも、ひとつの選択肢だと思う。日本で社会経験のある人なら、現地でもきっと居場所は見つかるだろう。
(室橋裕和)