サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー“不倫関係”を羨ましく感じる1冊 カルチャー [官能小説レビュー] 桜木紫乃『十六夜』に描かれる、“不倫関係”を羨ましく感じてしまうワケ 2016/11/23 19:00 官能小説レビュー 『ワン・モア』(角川文庫) 男と女は、似た性格を持つ者同士が、自然とつながり合うようにできているのかもしれない。社交的な男には社交的な女が、セックス好きな男にはセックス好きな女が、それぞれ寄り添う傾向にある。 中でも、一番男と女を引き合わせるのは「寂しさ」という感情ではないだろうか。底知れぬ寂しさや悲しさを持つ者、同じような異性を呼び寄せる……実際に経験のある人も少なくないのではないだろうか。 今回ご紹介する『十六夜』(角川文庫『ワン・モア』収録)に登場する美和と昴もそんな関係だ。医師である美和は、安楽死事件を起こしたことにより離島の診療所に飛ばされてきた。大病院とは異なり、離島には診るべき患者も少ない。暇を持て余している中で知り合ったのが、既婚者である昴だ。彼はオリンピックに出場するほどの水泳選手であったが、ドーピング検査に引っかかり、選手生命を絶たれてしまった。 2人の逢瀬の場所は、現在漁師である昴の船の中。美和が島に来てから1年半、2人は約束もせずにそこで落ち合う日々を送っていた。小さな島ゆえに、ウワサが広まるのは非常に早く、2人が不倫関係にあることは島の誰もが知っていた。 その日も美和はほろ酔いのまま昴の船へ行き、彼に抱かれた後で島を出て行くことを告げた。学生時代からの友人である開業医の鈴音が病気になり、自分の病院で働いてほしいと頼まれたからだ。 そんな折、美和の診療所に昴の妻である茜が現れ、昴が、島を出たいと言っていると、睨みつけてきた。泳ぐことだけしか考えていなかったスイマー時代のように、今は美和のことだけしか考えられなくなっている、というのだ。その様子を見て、美和は昴と別れる決心をする。そしてその1週間後、茜が流産したという連絡が入るのだが……。 人生には前進もできず、かといって後退もせず、ただ立ち止まることしかできない時がある。美和と昴にとっては、島の船の中でくらげのようにゆらゆらと抱き合う時間が、それだったのではないだろうか。昴の妻や島民全員に後ろ指を指される2人の関係は、一見、希薄なものにしか感じられない。けれど、“立ち止まることしかできない”瞬間を知っている人にとっては、互いの存在は、2人これから生きて行く上で、代えがたいほどの大切なものであるはずだと、想像させるのだ。 寂しさの質が似た者同士の肌の温もりは、当人同士しか理解しあえない良薬となる。胸が詰まるような美和と昴の官能を、羨ましくも感じてしまった。 (いしいのりえ) 最終更新:2016/11/23 19:43 Amazon ワン・モア (角川文庫) ベッキー、読むといいよ 関連記事 陵辱された女の復讐劇――『優雅なる監禁』のヒロインが失ったモノと得たモノ『花芯』とは女性器の喩え――瀬戸内寂聴の描く激情の女が魅力的に映るワケ誇り高きヤリマン女子大生の姿に、清々しさすら覚える『愛よりも速く』「おっぱいの大きい女=エロい女」記号化される女の悲哀が共感呼ぶ『星屑おっぱい』アイドルの夫とセックスに耽る――中学生の生み出す妄想が眩しい『官能と少女』 次の記事 ハーフは劣化が早い、を美容医療から考える >