コラム
[連載]悪女の履歴書

「宮家の後継者」を自称、マスコミ・芸能人を巻き込んだ「有栖川宮詐欺事件」の女

2016/11/20 19:00

世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

Photo by MIKI YOSHIHITO from Flickr

[第29回]
有栖川宮詐欺事件

 今から13年前、マスコミを熱狂させた珍妙な事件が起こった。

 すでに断絶していたはずの華族・有栖川宮家の後継者を名乗る人物と、そのパートナー女性による結婚祝賀を舞台にした詐欺事件だ。

 事件は2003年4月6日、有栖川宮家の後継者を名乗る有栖川識仁(当時41)と妻となるはずの坂上春子(仮名・当時44)による「有栖川記念奉祝晩餐会」と称した結婚式を舞台にしたものだ。このパーティは、カナダ大使館地下にある会員制のクラブで開かれたものだが、2人は結婚式の出席者375人からご祝儀など1350万円を騙し取ったとして、この年の10月21日に詐欺罪で警視庁公安部に逮捕されてしまう。

 有栖川を名乗る2人の存在は、結婚式以前から“あまりに胡散臭い”カップルとして一部メディアで話題になり、注目されていた存在だった。

◎筆者にも届いた「招待状」
 発端は、この年の2月に送られた「有栖川記念奉祝晩餐会」の招待状だ。その送付数は2千通ともいわれているが、彼らはさまざまなツテや、一度しか面識がない人々にまで結婚招待状を送りまくっていた。送付された人の中には何人ものマスコミ関係者がおり、「本当に有栖川家の継承者なのか」「末裔なんて嘘だろう」とその胡散臭さを嗅ぎ取り、“皇室詐欺事件”ではないかと裏付け取材が行われていた。

 実は筆者も、この招待状を受け取った1人だ。

 結婚式が行われる前年の02年末、著名人が集まるあるチャリティー・ショーが行われたが、筆者もそこに取材のため出席し、“知人の知人の知人”のような形で坂上と名刺交換をしている。当時の彼女は確かに活発で、物怖じせず、バリバリ働いている女性という印象だったが、一方で少々押しが強く、初対面なのに距離感が近いという感想を持った。ほんの短い時間だが、当時は“彼氏募集中”といっていた気がする。それだけの関係だったが、なぜか翌年2月に“有栖川宮記念”と記された立派な結婚式招待状が送られてきたのだ。

 名刺交換した人間なら誰彼構わず招待状を送っているとのうわさは聞いていたが、筆者も当時仰天したことを覚えている(残念ながらお金がもったいないので出席はしなかったが)。

 しかも、関係者をさせたのは、それからしばらくして送られてきたもう一通の招待状だった。前回の式はキャンセルとなり、別の日、別の場所、つまりカナダ大使館地下に変更になったという案内。華族という由緒正しき結婚式にあるまじき事態だとこれまた話題になった。

 ますます怪しさを増していく有栖川結婚式。そのため2人にアプローチするマスコミもあったほどだ。そして4月6日、晩餐会が開かれて以降、この“騒動”はさらにヒートアップしていく。

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