「正解を先回り」して安堵する「nina’s」子育ての息苦しさ
■親の趣味にたゆたう小舟のような「子どもの自主性」
「“いい母親”から脱却しよう」という流れが育児トレンドとして定着し、それが「子どもの自主性を重んじる母親」という新たな締め付けとなっているのは、「nina’s」以外の育児媒体を見てもよく感じることです。
それを踏まえたうえで、11月号の別冊付録「キッズスペース アイディアBOOK」を。キッズスペース、それは「nina’s」育児のエッセンスが具現化した恐るべし子育て番外地。リードには「楽しくて、かわいくて、子どもたちがイキイキと過ごせる部屋を作りたい! そんなママたちのために、nina’sが選りすぐった子ども部屋を大公開!」とあります。
「色で遊ぶ」「スペースの上手な作り方」「子どもインテリア&デコで楽しく」「収納いろいろ」というカテゴリーのもと、秀逸な子ども部屋がズラリ。これまで女性誌レビューで散々指摘してきた「戦隊モノ」「キャラクターモノ」が一切見えないことにはもう触れるまい。黒板置きすぎ、部屋の中にハンモックつるしすぎ問題にも触れるまい。いや本当にIKEAに展示されてるみたいな部屋ばっかりなんですけどね……。
オシャレでポップでクリエイティブな子ども部屋は、先ほどの育児習慣ページと驚くほどリンクしています。「子どもの世界観を大切にしながら、飽きのこない寒色でまとめて」「あたたかくて優しい雰囲気を作ってくれる暖色系の色壁は、女の子の部屋にぴったり。特にピンクは、気持ちが穏やかになったり、思いやりが出てくるので子どもの心理にプラスの効果が」「階段下に作った『あなたの場所』で自主性を伸ばす」「子どもの布団は『La cerise sur le Gateau』のカバー。枕やクッションにも動物モチーフを持ってくれば、睡眠時間も楽しくなって、みんなとぐっすり眠れそう」などなど、子育ての正解を先回りして、子どもの自主性やクリエイティビティが育ちそうな(と親が想像しうる)ものをあらかじめ提示しているかのよう。
いやいやそれは穿った見方か。子どもが望むもの、子どもが好きなもの、子どもが喜ぶもの、子どもが伸びるものが「親の趣味」とバッチリ重なり合うなんて奇跡だと思っていましたが、「nina’s」においてはそのような奇跡が当たり前に起きる、それだけのことかもしれません。
冒頭のSHIHOに限らず、「nina’s」子育ての根底にあるものは、「子どもの自主性を大事にする」「親はあれこれ口出しせず、子どもを温かく見守る」「いつも自然体に」など、建て前感漂うもの。そこで育児にまつわるドロドロしてぐちゃぐちゃしたやるせない思いをうまいこと中和してくれるのが「オシャレ」なのです。うんちの処理も夜中の授乳もイヤイヤ期も帰りの遅い夫も駅から遠いわが家も、「オシャレでクリエイティブな子育てをしている私」という名の下であれば許容できてしまうから不思議。「オシャレ」と「子どもの自主性」と「素敵なママ」がもつれ合い、からまり、一体となりながら今日も母たちは「理想形を先回り」するのでしょう。
(西澤千央)