映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

年上女が若い女に“友情”を強いるとき――『あるスキャンダルの覚え書き』、女友達への欲望

2016/09/30 20:30

◎同僚を唯一無二の友人と解釈
 映画『あるスキャンダルの覚え書き』(リチャード・エアー、2006)は、他人との緊密な関係を求める孤独な老女が、若い女性教師が抱えるスキャンダルの秘密を握ることで彼女との「関係妄想」に溺れていくさまを、老女自身のモノローグによって綴る心理劇。ジュディ・デンチ対ケイト・ブランシェットの、息詰まる演技が話題になった。
 
 バーバラ(ジュディ・デンチ)は、労働者階級の子息が数多く通うハイスクールで、歴史を受け持つ定年間近の教師である。ショートヘアに真一文字に結んだ口、しわに囲まれた決して笑わない目。彼女のルックスと言動には、教師一筋で生きてきた独身高齢女性の、自我の強さとプライドの高さがうかがわれる。ベテランとしての存在感はあるが、親しみは持たれていない。

 赴任してきた若い美術教師のシーバ(ケイト・ブランシェット)が、生徒同士の取っ組み合いの喧嘩に手をこまねいているのを助けたことで、バーバラはシーバと親しくなる。シーバの家にランチに招かれて舞い上がり、美容院でセットした髪に新調した服で訪問し、シニカルな視線でその家族構成員を観察する様子からは、シーバを家族から切り離して自分のものにしたいというバーバラの願望が、早くも透けて見える。

 シーバ自身の過去や、ごくプライベートな話をざっくばらんに聞かされて、その無防備さに驚くバーバラだが、これをもって友人になれたと確信。この時点でボタンが掛け違っていることに、彼女は気付かない。

 学校のクリスマスイベントの夜、バーバラは、シーバが生徒と美術室でセックスしているのを目撃し衝撃を受ける。相手の男子は喧嘩事件の1人で、15歳のスティーブン。さっそく全てを話せと迫るバーバラに、シーバは渋々、スティーブンとの関係が喧嘩事件の前からあったことを打ち明ける。シーバに一目惚れしたスティーブンに、デッサンの個人教授をしているうちに情が湧き、ついに拒否できなくなったというのだ。

 なぜ最初にそれを打ち明けなかったのかと非難しつつも、バーバラはこの秘密の共有によってシーバともっと親しくなれると考える。「学校には報告しない」というバーバラの寛大な約束に泣いて感謝するシーバ。それをバーバラは、「私たちは深い理解で結ばれている」と勝手に解釈して悦に入る。


 これ以降、バーバラの中に生まれたシーバとの「関係妄想」は、些細な出来事を経てどんどん強まっていく。

 あなたにとって私は重要人物。私にとってもあなたは無二の人。2人の友情は絶対。誰も私たちを邪魔できない……。こんな思い込みの強い支配的な女に捕まったら、年下の女はなかなか逃げられないだろう。弱みを握られていればなおさらだ。

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