田房永子氏×斉藤章佳氏対談(前編)

痴漢はペニスだけの問題ではない 誤解している加害者の実態

2016/08/09 16:00

■痴漢は性欲の問題だけではない

田房 どんな薬を飲むんですか?

斉藤 抗鬱薬の一種でSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などを用います。副作用で勃起不全を起こすといわれています。

田房 つまり、勃起さえしなければ痴漢はしないと?

斉藤 ところが、これもすべての人に有効だとはいえません。なぜなら、痴漢加害者約200名を対象にした調査で、痴漢中に勃起していたかどうかを尋ねたところ、半数以上が「していない」と回答しました。つまり性欲の問題だけではないということです。


田房 痴漢は全員勃起しているわけではない……驚きました! 鉄道各社は、この情報こそポスターにして貼り出したほうがいいですよ。世間は「性欲が、衝動的に男を痴漢に走らせる」と思い込んでいます。「酒に酔っていて」「魔が差して」やってしまうものだから、男性に向けて「痴漢をするとあなたの一生台無しに」というポスターが貼られていますよね。それって「ペニスが悪いのであって、その人は悪くない」ということだと思います。痴漢でない男性にも電車内でふとしたことで勃起する人は少なくないそうですが、その延長線上に痴漢行為があると思い込んでいるからこそ、自分に非難の矛先が向かないよう痴漢を擁護します。だけど実際は「ペニス」だけに支配されたことによる行動ではない、ってことですよね。

斉藤 性欲が強すぎて、あるいは性的に満たされていなくてやっている人のほうが、本質的には少ないかもしれません。性風俗を頻繁に利用している痴漢加害者もいれば、妻と定期的に性交渉を持っている痴漢加害者もいます。それよりも実際は、ストレスへの対処行動であるケースのほうが多いですね。痴漢でスリルやリスクを冒してまで成功した達成感や、抵抗してこない相手を支配・征服した優越感に浸れるとか。それによって、日ごろのストレスを忘れるんです。

田房 わかります。痴漢って、イジメなんですよ。困っている相手を見て気持ちよくなるって、イジメの快楽ですから。

斉藤 痴漢加害者の多くは大卒で、会社員で、家族がいる男性です。どこにでもいる、普通のビジネスマン。そんな彼らが、たとえば会社で上司に厳しく叱責され、挫折感を感じていたり、家庭でパートナーに疎まれていたりして、痴漢によってその不全感を埋め、計り知れないぐらいの優越感や征服感を得られるとなれば……。

田房 それは、やめられない……んでしょう。だけど私は、自分がいまより身長が低くて世の中のことがよくわからなかった中学生の頃に痴漢に遭ったことを思い出すと、ほんとうに悔しくて怒りが湧いてきます。そんな大人の男性の個人的な事情によって、あんなに怖い思いをさせられるなんて、理不尽すぎる。いま自分が電車に乗っているときも、人知れず、未成年の子どもたちが、ひとりの大人の鬱憤を晴らす道具にされていることが、本当に許せないんです。


 頻繁に痴漢に遭っていたころの田房氏は、周囲の大人たちに「痴漢は何を考えているのか」を尋ねても、一向にまともな答えを得られなかったという。30代になってやっと痴漢について考察できるようになり、いまこうして痴漢をする男性像が浮かび上がってきた。後編では引き続き斉藤氏と、「痴漢は撲滅できるのか」について話し合ってもらう。
(三浦ゆえ)

(後編に続く)

最終更新:2016/08/10 15:10
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