「清掃という仕事の“やさしさ”に報いたい」世界一清潔な空港を支える女性の生き方
■清掃はどんな人でも受け入れてくれる、敷居の低い仕事
――著書のタイトルにもなっている「清掃はやさしさ」ということについて、新津さんが考えられる“やさしさ”とは何でしょうか?
新津 上司に「あなたの清掃にはやさしさがない」と指摘されたことがありました。最初私にはその言葉の意味がよくわからなかったのですが、お客様の動きを観察したり、自分の働き方を見直したりするなかで、いろいろとわかってきたことがありました。
たとえば、空港は常にお客様がいらっしゃるところで作業をしますが、私はそれまで作業に夢中でお客さまに心配りができていなかったり、心の中でちょっと邪魔だなと思っていたりしました。そういうところが、自然と態度に表れていたのではと反省しました。
また、一緒に働いている人や使う道具にも、細やかな配慮が必要であることにも気づきました。それまでは自分のことだけ考えて、早くきれいにすることを目標にがむしゃらに作業をしていましたし、道具の扱いや手入れも丁寧にやっているとはいえませんでした。
――そうした気づきを通して、清掃に“やさしさ”を加えることができたと。
新津 そうですね。お客様の動きをよく観察していると男女や年齢によって、それぞれ触るところや歩き方、設備の使い方が全然違うことがわかりました。当然汚れる場所も違うので、それぞれに応じて清掃していくにはどうしたらいいか考えなくてはいけません。
空港に一歩入ったら、常に歩きながら目を配って、いろいろなところを見るようにしていますが、人がいるところには必ず汚れが生じますので、それをいかに早く見つけて、次のお客様が使う時、いかに気持ちよく使えるようにするかが大切ですし、それがやさしさにつながるのだろうと思います。
――お話を通して「清掃」という仕事にかける、新津さんの強い思いを感じることができました。最後に、そこまでのプロ意識を持つことができるのはなぜだと思われますか?
新津 清掃という仕事は、まだまだ社会的には専門職として認められているとはいえません。ですが、確かな技術と専門的な知識が必要な仕事であることは間違いありません。そしてやる気があればどんな人でも受け入れてくれる、敷居の低い仕事でもあります。実際に清掃員の中には人付き合いが苦手だったり、いろんな事情を抱えていたりする人もたくさんいます。私のように日本語を話すことすらできなかった人間を温かく受け入れてくれた清掃という仕事の“やさしさ”に報いたいという思いが強いのかもしれません。
(末吉陽子)