坂口健太郎、俳優としての魅力とは? 『重版出来!』『とと姉ちゃん』で見た意外な才能
『重版出来!』(TBS系)、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(NHK)と、坂口健太郎の出演作が続いている。坂口は現在24歳、「MEN’S NON-NO」(集英社)の専属モデルとして活躍中で、昨年『コウノドリ』(TBS系)で連続ドラマ初出演を果たした。
坂口が大きく注目されるきっかけとなったのは、今年の1月クールに月9枠で放送されていた『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、以下『いつ恋』)だろう。
本作は、坂元裕二が脚本を手掛けた地方出身の若者たちの恋愛群像劇。坂口が演じたのは主人公・曽田練(高良健吾)の友人・中條晴太。晴太は、表向きは明るく人懐っこい好青年だが、平気で人の物を盗んだり、危険なバイトを女友達に紹介したり、練の恋人が不倫をしていたことを、みんなの前でバラすといったひどいことを、平気で行う不気味な男だった。
坂口は、そんな謎の多い晴太の行動を、いかにも悪いことをしているという思わせぶりな感じは一切出さずに、ごくごく自然な行為として演じた。しかし残念ながら、路線変更があったのか、ドラマ後半は晴太の不気味さが消えてしまい、“仮面夫婦の両親に育てられたために思っていることを素直に言えない人間になってしまった”という安易な設定で処理されてしまった。
しかし、最終話で好きな人に心を開いてキスする場面は実に素晴らしく、物語の不備を演技の説得力でカバーしたことで、坂口の株は大きく上がったといえる。
◎無個性の男と強烈なキャラの両立
火曜午後10時から放送中の『重版出来!』では、漫画出版社の営業職に勤める小泉純を演じている。本作は松田奈緒子の同名漫画を原作とするドラマで、柔道でオリンピックを目指していたがケガであきらめて漫画編集者になった黒沢心(黒木華)の視点を通して、漫画業界の内幕を描いた物語だ。
坂口演じる小泉は、情報誌の編集者になりたかったが営業に配属され、異動願いを何度出しても通らないため、仕事に対する情熱を失っている。「がんばれ」という言葉が嫌いな小泉は存在感が薄く、取引先の書店員からは「幽霊」と呼ばれていた。しかし、『タンポポ鉄道』という漫画を売り出すために、心とキャンペーンを行うことで、仕事に対する情熱を持つようになる。
「入社して3年。その間、僕は何をしていたんだろう。がんばる。今がんばらなければ、僕はずっと幽霊のままだ!」(『重版出来!』第2話より)
やがて、書店回りや、地方の書店に手紙を送るといった地道な努力が実り、『タンポポ鉄道』は「重版出来」(本が増刷になり、版を重ねること)となる。
ともすれば、感動の押しつけになりかねない暑苦しい展開だが、小泉が変化していく様子を素直に受け入れられるのは、坂口の演技の温度が低く、肩の力が抜けているからだろう。感情の起伏がゆったりとしているからこそ、小泉の中で仕事に対する情熱がじわじわと盛り上がってくる様子が伝わってくる。
仕事の充実感で胸がいっぱいになり、途中で電車を降りて小泉が泣き出す場面は、熱量の低い坂口が演じたからこそ、素直に受け入れることができた名シーンだった。
一方、そんな坂口の新しい顔を見られるのが朝ドラの『とと姉ちゃん』だ。本作は雑誌「暮らしの手帖」(暮しの手帳社)の出版に関わった大橋鎭子をモデルとした小橋常子(高畑充希)を主人公としたドラマ。坂口は、植物学者を目指す帝大生の星野武蔵を演じている。