“女の子大好き”な女装男子から見えてきた、男女のコミュニケーションツールとしての「メイク」
■「男/女らしさ」を自由に行き来する時代
冒頭でも述べたように、近年は「男/女らしさ」の概念が崩れ始め、「男/女らしさ」に縛られることが個人の生きづらさにつながることも少なくない。先般逮捕された元野球選手のように、「男らしい」と虚勢を張っている人の方が実は繊細で、心が弱いという場合もある。
あずささんやまよさんは、女装することで女性が女らしくいることの大変さを実感しているので、基本女性を尊重しているという。「メイクがこんなに時間がかかるものだと知ったから、恋人がちゃんと化粧をしてくれた日はうれしい」「待ち合わせに遅れてきても、怒らなくなった」と、女装経験が恋人を理解する手段として有効に働いている。一方、「男らしさ」の概念を聞いてみると、「肉体じゃなくて心のあり方だと思うようになった」(まよさん)、「女装したことで、男性の肉体にこそ男らしさを感じるようになった」(あずささん)と、答えは正反対ながらも「男らしさ」の価値観が2人も変化したという。
このような新しい男女の理解の深め方・コミュニケーションは、これからの時代にあるべき1つの形かもしれない。男女雇用機会均等法が施行されて以降、女性は男性と同じように働く機会が増えた。それまでは男性ならではだった仕事の悩みや負荷が女性の肩にも重くのしかかる時代、ちょっとしたボタンの掛け違いで互いにいがみ合うようになる可能性も少なくない。軽やかに性別を行き来して、しなやかに生き抜く男性はある意味、適応力の高い男性なのだろう。「男/女だから」とこだわらずに、自分が楽しくいられる世界を持って時代を生き抜く新しい男性像を、今回の2人に見た気がした。美容業界に身を置く者としては、化粧品が新たな男女のコミュニケーションツールとして関係を深める一助になっていることに、新たな可能性を感じた。
<取材協力>
女の子クラブ 新宿本店
女の子の服に着替えられる新感覚コンセプトバー。店内にはコスプレ服をはじめ、スカートやワンピースなどの洋服、メイク道具などが用意されているので、手ぶらで来店しても女装が楽しめる。バーとしてお酒も楽しめるので、女装に興味がある人はもちろん、女性客や一般男性客も多い。詳細はこちら
恩田雅世(おんだ・まさよ)
コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。現在、フリーランスとして「ベルサイユのばらコスメ」開発プロジェクトの他、様々な化粧品の企画プロデュースに携わっている。コスメと女性心理に関する記事についての執筆も行っている。
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