SMAP騒動で、芸能界は転換期を迎える? 「タレントは事務所の“所有物”」ではない
星野 日本の芸能界では、タレントは芸能事務所の「所有物」であり、勝手に移籍したり、独立することはタブーとなっています。一方、私が調べた限りでは、アメリカのエンターテインメント業界でタレントの権利を擁護する仕組みは、主に労働組合や反トラスト法(独占禁止法)、タレントの斡旋業務を行うエージェントを規制するタレント・エージェンシー法の3つがあります。この中でも最も重要だと思うのが、タレントによる労働組合で、タレントの権利擁護運動を調べると、エンターテインメント業界のどの分野でも最初に出てくるものです。
例えば、映画とテレビの俳優約16万人が加入している「SAG‐AFTRA」という労働組合がありますが、最も重要なのは、「いかなる組合員も、組合の協定に署名していないプロデューサー、またはエージェントのために働くことは許されない」とする「グローバル・ルール・ワン」と呼ばれる規定です。こうした規定によってSAG‐AFTRAは、エージェントに対して強い交渉力を持っています。また、組合員が多いために、本格的な映画に出演するにはSAG-AFTRAに加入しなければなりません。
こうした取り組みにより、アメリカのエンターテイメント業界では、タレントの地位が高く、エージェントはタレントを「お客様」として扱い、タレントがエージェントを切り替えるのも自由です。
――SMAP騒動を機に、日本中の人々が芸能事務所や芸能界に疑問を覚え始め、いま芸能界やテレビ業界は転換期を迎えているように思います。
星野 テレビなどの大手マスコミは芸能事務所との付き合いがあり、どうしても芸能事務所寄りの報道になってしまいますので、マスコミに頼らず、ネットなどを活用し、自分で情報を集め、問題があれば抗議の声を上げることが重要だと思います。
今回のSMAP騒動で露見したのは、ネットの威力です。大手マスコミは相変わらず、ジャニーズ事務所の顔色をうかがい、独立を画策した中居さんたちが「恩知らず」であり、干されるのは当然といった論調の報道が多いですが、ネットではジャニーズ事務所にとどまろうとした木村さんに「仲間を売った」として批判の声が集中し、まったく構図が異なります。
――そうした報道に違和感を持ったとき、私たちにできることはありますか?
星野 今回の騒動ではTwitterやBPO(放送倫理・番組向上機構)のサーバーがダウンするなど、ネットの影響力の大きさに注目しています。近年、大きな騒動となったタレントの独立事件といえば、2001年に勃発した鈴木あみ(現・亜美)さんのケースが思い出されます。このときも復帰を求めるファンによるCDの購買運動や署名運動が起こりましたが、成果は乏しかったといえるかもしれません。しかし、今は当時よりもネットユーザーの数が増え、YouTubeやFacebook、Twitterなどのネットサービスで国民の声がダイレクトに発信されますので、その勢いはとてつもなく大きくなっています。
あの会見を見れば、誰でも異常性を感じ取れるはずですし、マスコミ報道の裏もたちまちのうちにバレてしまう。国民も、タレントが干されるという現象のおかしさを認識しつつあるのではないかと思います。これだけ国民の反発が大きいと、今後、芸能事務所の方も非常にやりにくくなるのではないでしょうか。