新郷由起氏に聞く、高齢経営者の病

メリー氏は「キレる老人」? 80〜90代高齢経営者が陥る「感情の暴走・自己顕示」の病

2016/01/24 19:30
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『老人たちの裏社会』(宝島社)

 ジャニーズ事務所はエンターテインメントに才能を発揮するジャニー喜多川氏(84歳)と、経営に手腕を振るうメリー喜多川氏(89歳)の両輪で成功したといわれる。しかし、昨年の「週刊文春」(文藝春秋)のインタビューにおける社員への発言や、今回の独立騒動をめぐる報道により、メリー氏について「パワハラ」「老害」と揶揄する声がネット上にあふれている。言動が暴走する高齢者を“キレる老人”と呼んで久しいが、敏腕な経営者であるメリー氏も、現在89歳という年齢を考えるとその兆候にあるのだろうか。

 『老人たちの裏社会』(宝島社)で万引きやストーカー、DVに手を染める高齢者の姿を明かした著者・新郷由起氏は、現在の80~90代の高齢者についてこう語る。

「この世代の方々は、戦争をくぐってきた世代。団塊の世代とはまた異なり、社会へ貢献してきたという自意識が高い。現在、100歳以上の高齢者が6万人以上いる日本では、80~90代といっても現役感がバリバリです。特に、経営者や企業の創始者としてトップに立ってきた方では、ご本人の中でもひと際現役感が根強いので、心底には次世代と張り合う意識もある。その上で『自分が時代を切り開いて来た』といった実績や自負が加わるため、プライドがとても高く、否定されることにものすごく弱いんです。『そのやり方は、時代にそぐわない』などとストレートに言おうものなら、自身を全否定されたように感じて激憤し、大爆発してしまう。どんなにこちらが理論整然と話をしても、『1+3=120』のような滅茶苦茶な話を屁理屈や感情で叩き伏せて、自己顕示に走る人も多い。もちろん、フレキシブルに価値観を刷新し、柔軟な対応が得意な方もいらっしゃいますが」

 今回のメリー氏と飯島三智氏(59歳)の関係だけでなく、お家騒動で昨年話題になった大塚家具も、時代の感覚を持った娘(47歳)の新しい経営方針を、創始者である父(72歳)が受け入れられず溝ができたとされる。しかし、素晴らしい仕事で結果を残してきた経営者が、ある時から経営感覚を失い、“暴走”を始める可能性があるとは受け入れがたい。

「最近の高齢者はみなさん見た目も若いので元気で当たり前、という発想ですが、逆です。人間は加齢と共に体の様々な機能が衰えていくのが常なので、老眼や関節痛など、どこか支障を来たしていて当たり前。脳に関しても抑制系の神経細胞が自然死していくため、人によっては理性で抑えきれずに感情が暴走してしまう。この他に、服用している薬の飲み合わせや、前頭側頭型認知症の初期症状として感情が激昂しやすくなっている可能性もあります。後者の認知症はアルツハイマー型と異なり、初期の段階では欲求や衝動の制御が利かなくなるなどの症状しかなく、MRIなどの検査でも特定が極めて困難。このため、ワンマン経営者で、もともと怒りっぽい性格の方だと、この認知症の可能性が見落とされがちです」


 いくら経営者として実力を持った人間でも、もちろんメリー氏といえど加齢による感情コントロールの衰えは回避できないようだ。では、次世代が高齢経営者と対立せず、有益な関係を築くことは不可能なのだろうか。

『老人たちの裏社会』