嵐・二宮和也『坊っちゃん』が映した、「等身大の若者」ではなくなった俳優・二宮の課題
◎「大人」を演じられない俳優・二宮
クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』や、倉本聰が脚本を手掛けたテレビドラマ『優しい時間』『拝啓、父上様』(ともにフジテレビ系)に出演した二宮は、年配のクリエイターたちから、その演技力を高く評価されてきた。
一方、『流星の絆』(TBS系)や『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系)といった現代が舞台のドラマでも主人公を演じ、ひねくれた若者の持つ苛立ちや焦燥感を演じさせたら右に出るものがいない存在だった。10代後半から20代にかけての二宮は、自分の得意とする演技と役柄の相性がうまく噛み合った幸福な時代を過ごしてきたと言える。
しかし現在の二宮は32歳。これは、嵐のメンバー全員にいえることだが、若者役を演じることが年々、厳しくなってきている。かといって、アイドルということもあってか、若々しい外見のため、いきなり中年男性や父親役を演じるというわけにはいかず、青年にも中年にもなれない立ち位置にいる。
そんな二宮の状況が画面に出てしまったのが、2014年に放送された『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(日本テレビ系)だろう。二宮は野球部を受け持つ教師を演じたが、生徒役を演じた福士蒼汰や本郷奏多たちに比べると明らかに大人なのに、教師役をやるには若すぎるというどっちつかずの印象で、どう演じていいか戸惑っているように見えた。
若者役が難しくなってきているのは嵐のメンバー全員にいえることだが、二宮以外のメンバーは、年齢とは関係ないマンガのキャラクターを演じることで、その問題をうまく保留にしている。そんな中、等身大の若者を生々しく演じられることで高い評価を受けてきた二宮は、真っ先に年齢の壁とぶつかってしまったように見える。
それ以降の二宮は、現代を舞台にした連続ドラマには出演していない。そして、今回のスペシャルドラマでは2作とも舞台が過去となっている。
過去を舞台にすれば、まだまだ青年役を違和感なく演じられるということは、『赤めだか』に関しては証明できたと言えるだろう。現在公開されている映画『母と暮らせば』でも戦後を舞台に吉永小百合の息子役を演じているが、しばらくはこの路線に活路を見いだすのかもしれない。
『坊っちゃん』のラストでは、自分の信念を貫いて教頭の“赤シャツ”を殴った坊っちゃんが、教師を辞めて東京に戻り、その後、亡くなったことがナレーションで語られる。つまり、大人になれずに死んだことが暗示されて物語は終わるのだが、果たして二宮はうまく青年から中年になれるのだろうか。
それはそのまま、国民的アイドルグループの嵐が30代をどう生きていくのかという課題ともつながっている。
(成馬零一)