サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー官能小説の王道的ヒロイン像とは カルチャー [官能小説レビュー] “セックスだけ”の女こそ男を翻弄する? 『黒い瞳の誘惑』に見る官能小説の王道的ヒロイン 2016/01/04 19:00 官能小説レビュー 『私にすべてを、捧げなさい。』(祥伝社) ■今回の官能小説 『黒い瞳の誘惑』(渡辺やよい、祥伝社『私にすべてを、捧げなさい。』より) 官能小説のヒロインでよく登場する、魅惑的で美しく、男性を翻弄して弄ぶエロい悪女たちは、現実ではなかなかいないキャラクターだからこそ、官能小説愛好家の間では常に人気があるのだと思う。では、彼女たちはなぜ男性に愛されるのだろうか? 今回ご紹介する『私にすべてを、捧げなさい。』(祥伝社)は、8人の人気官能小説家によるアンソロジー。美人秘書、OL、妊娠中のキャリアウーマンなど、さまざまな職種の悪女たちが、男たちをセックスという武器で操っている。その中の一作、渡辺やよい氏の『黒い瞳の誘惑』は、美しい黒髪の女性がヒロインの物語だ。 物語は葬式のシーンから始まる。主人公の片桐は、大学時代の山岳部の友人・水野の葬式に参列していた。単独で北アルプスの山に入り、遭難をしてしまったというのだ。 以前から水野に相談を持ちかけられていた片桐は、彼の遭難を「自殺」だと感じていた。そして、水野と関係を持っていた、濡れたような黒い瞳を持つ女の存在が、彼の死に関与しているに違いない、とも。 家庭を持つ水野が片桐にある1枚の写メを見せてくれたのは、ちょうど1年前のこと。昔から恋愛下手であった水野に愛人ができたというのだ。その写メには、裸で水野と抱き合う、整った顔立ちに肉感的な体を持つ女・萌絵美が写っていた。 次に水野と連絡を取り合ったのは、彼の死の1週間前。その時の水野は、萌絵美の存在を浮かれた顔で語っていたかつての彼とは違い、顔面蒼白で現れた。話を聞いてみると、「萌絵美が離してくれない」「いくらセックスしても足りず、何度も求められる」と言うのだ。 そんな話を聞いていたからか、片桐は葬儀の際、水野の妻から斎場を追い出される萌絵美を追いかけ、連絡先を渡してしまう。後日、萌絵美から「水野の妻から慰謝料を請求されている」と相談された片桐は、金を貸す約束をし、ホテルへと誘う。水野を死に至らしめた女だ、と自らに警笛を鳴らしつつも、片桐は萌絵美の体を貪り、それまで経験したことのない快感を得る。 そして片桐もまた水野と同様に、萌絵美とのセックスに溺れてゆく。会社の昼休みに公園のトイレへ萌絵美を引き連れ、抱き合う。彼らのセックスは次第にエスカレートし、会社の会議室や居酒屋のトイレなど、欲情すれば所構わず求め合うのだが――。 美しい容姿といやらしい体を持ち、底なしの性欲を持つ萌絵美は、「生活感がまったく感じられず、セックス以外は何も求めない」という点で、掴みどころのない存在として筆者の目に映った。 男性にとっても、セックスによるリアルな肉体的感覚を与えるにもかかわらず、生活感がまったく見えない非現実的な萌絵美を、非常にアンバランスに感じるのではないだろうか。まるで「幽霊」のような存在の女だが、その危うさこそが男を魅了するのかもしれない。 (いしいのりえ) 最終更新:2016/01/04 19:00 Amazon 『私にすべてを、捧げなさい。(祥伝社文庫)』 壇蜜がどうしておじさんにウケているのかわかるわ~ 関連記事 平凡なOLが体現する“究極のセックス”とは? 『悪い女』に見る“禁断”の作用『淫ら上司』に見る、スポーツクラブが男にも女にも“エロティック空間”なワケ「モテない女の妄想炸裂」男目線の女性の官能小説像に一石を投じる『華恋絵巻』『春を売る』から読み解く、男たちが求める“素人”っぽさの正体ラブホテルという非日常で育った女の“節目”を描いた『ホテルローヤル』 次の記事 結婚したウォンビンとヨン様のその後 >