[連載]ここがヘンだよ子育て本!

セレブママ・滝沢眞規子が、「同じ主婦/ママ」として読者のもとに“降りてきた”ことが生む悲劇

2015/12/13 16:00
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滝沢眞規子『滝沢眞規子 MY BASIC』(光文社)

【第3回】
滝沢眞規子『滝沢眞規子 MY BASIC』(光文社)

<総合評価(10点満点)>
文化伝統行事に意識がいっちゃう度 ★★★★★★★★★
自分不器用っすから度 ★★★★★★★★
カネがあれば主婦は楽しい度 ★★★★★★★★★★

【寸評】
 セレブママの聖典「VERY」(光文社)のカリスマモデル、タキマキこと滝沢眞規子。そんな彼女のスタイルブック『滝沢眞規子 MY BASIC』は、こんな一文で始まる。

「私と同じように主婦として忙しく毎日を送る方だけでなく
これから結婚して新生活を始められる方、
手のかかる小さなお子さんと頑張っているママにも
この本から何かを感じていただけたら嬉しいです」

 この本を読んで感じる「何か」とは、まぎれもなく「資本主義」である。持つ者が豊かな生活を送るという資本主義の根幹をあらためて認識させてくれる本。その一方で、本来は同じ土俵に上がる必要のない「持つ者」と「持たざる者」が、同じ「主婦」「ママ」というカテゴリーで結ばれてしまう悲劇も痛感する。単なるセレブのゴージャスライフならば別世界として享受することも可能だが、そこに「同じ主婦/ママとしての共感」という軸が登場するものだから、読者たちは否応なしに土俵に上げられてしまうのである。これは序二段がいきなり横綱と対戦させられるようなもの。


 横綱タキマキは「主婦ってすてきな職業」「お母さんでいることが最優先」と相手のまわしを十分に引き寄せたところで、「節目節目にダンナから贈られるバーキン!!」で一気にぶん投げる。「高級チョコよりジャイアントカプリコが好き」で引き寄せて、「家の食器は全て有田焼」でドーン。これが延々と繰り返されるのである。何度土俵の真下に叩きつけられてもまた立ち上がる、それを「憧れ」と言い換えることができる真のポジティブ(ドM)な方のみが手に取ることを許される試練の書とも言えよう。

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■ハイコストな「普通」

 日本の四季や年中行事などを重んじるのは、昨今の素敵ママ、おしゃれママにとっては定番の手法です。しかしタキマキさんがそこいらのオシャレママと違うのは、そこに「普通」という冠をつけること。たとえば「家族みんなで大掃除をして、角松を飾り、おせちを作る。そんなごく普通のお正月を私も子どもたちに伝えていきたいです」。この「普通」というのが曲者で、下町の老舗紙もの店で作った犬張り子を飾り、オリジナルの手作り枝物をリビングにあしらい、おせちを作り、テラスで餅をつき、七草粥を炊く……。「普通」とつけられたお正月は急に恐ろしい魔物となり、世の母たちに牙をむくのです。

 しかし最も重要な点は、タキマキさんが気合入れまくりの伝統行事をアピールすることで見えてくるメッセージ。「私が子供の頃、祖母や母と一緒に作った栗きんとんや黒豆など何日もかけて作ったおせちは、そのゆっくりとした時間と共に温かい想い出として私の記憶に残っています」。これこそ、「普通」の暮らしが決して一代では達成されないことを申し渡しているのです。ネットなどの付け焼き刃ではどうにもならない、文化的教養とセンスこそが彼女の最大の武器。ということで「つい文化伝統行事に意識がいっちゃう」度は★9つ。


滝沢眞規子 MY BASIC (VERY BOOKS)