東村アキコ『ヒモザイル』が炎上! 主婦&バリキャリ女子を攻撃する“勝者”目線の偏り
◎「炎上」は妥当な結果だったのか?
東村先生の作家としての最大の長所は、物事を単純化して咀嚼し、シンプルで力強いアウトプットにまで持って行くことのできる理解力と表現力です。かつて『ひまわりっ ~健一レジェンド~』(同)で副主任がマンガ家志望の若者相手に投げかけた端的かつ的確な言葉とアドバイスは、現実社会でもマンガ家が実際に応用できてしまうのではないかという説得力にあふれたものでした。『かくかくしかじか』(集英社)では、美大予備校で名教師として手腕を発揮した様子も描写されています。
それが今回は裏目に出てしまいました。さまざまな事象を単純化しすぎたがゆえに、やや配慮に欠ける描写があったことは否めません。
ほかにも『東京タラレバ娘』(講談社)で見られた30代有職独身女性に対するバッシングなどもあり、つまり本作は、将来が不安定な非正規雇用労働者男性と、結婚しそうにない独身有職女性を中心に、返す刀で専業主婦をさらりと叩きつつ、ほぼ全方位を攻撃しながら、自らも含めた経済的・社会的勝者のみを唯一絶対の正義とする構造で描かれています。IT系の経営者などが本作を積極的に評価しているのも納得です。彼らには自らの正当性・優位性を再確認できるエンタメ作品として受容されているのでしょう。
ところが第2話を読む限りでは、第1話がなくとも、(アシスタントのいじり方に好みが分かれるところとは言え)「オタク男子改造計画」として楽しめる作品になっています。「大傑作」とまでは言えませんが、いつもの東村節が炸裂しているのです。
“セレブ”ママ友のくだりには不自然な点もあります。普段は無駄に高い飲食代を毛嫌いする東村先生が、わざわざ「高い高い紅茶とケーキを食べながら」なんて煽り気味に書いておきながら、それはなんら回収されることがないのです。さらに「恵比寿で女友達が飲んでいるというので顔を出しに行った」というコマで描かれている店は、おそらく青山の「ナプレ」。単にこれは場所を濁しただけでしょうか? それともこんな女子会は本当は開かれていなかったのでは?
そもそも東村先生はことのほか炎上を恐れている人です。『ママはテンパリスト』1(集英社)のあとがきには、ネットで叩かれることを恐れて「育児に関するハウツー的な情報を一切描かない」と決めた、と書かれていますし、東京オリンピックのエンブレムに関するTwitterでの発言がやや問題になったときにも、即座に消して謝罪しています(8月26日)。
本作はまだ第2話です。寄せられた批判や不自然なあれこれは、きっと作中で回収されていくものと信じたいです。安直に謝罪や撤回をするのではなく、マンガ家は、やはりマンガで応えるべきだと思うからです。
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。