ヒロミの“愛妻家キャラ”はなぜ賢いのか? 坂上、有吉、マツコら毒舌タレントとの違い
なぜ伊代は愛されるのか。ここで「そもそも男にとって料理はさほど重要でないから」という可能性に気づいてほしいが(おいしい料理が家庭の円満に不可欠なら、料理教室の先生やシェフなど、高度な調理技術を持った女性には、独身者や離婚経験者がいないことになるが、実際はそうでないだろう)、日本では「女性は料理をすべき」という刷り込みがあまりに強すぎるので、なかなかそこに考えが至らない。代わりに浮上するのが「ヒロミがいい人だから」説である。「伊代の内面を見て評価している」とヒロミに好感を抱く人もいるのではないだろうか。
先ほど、妻子を持たないことが、毒舌タレントのガス抜きにつながると書いたが、愛妻家であることもまた一種のめくらましになる。ヒロミの傍若無人な芸風に不快感を覚えることがあっても、「でも、あの人、家族を大事にしているし」「料理ができなくても、怒らないんでしょ?」というふうに、「ああ見えて、いい人」と芸風をマイルドにさせるのである。
ところで伊代は、料理も苦手だそうだが、片づけもできないそうだ。『踊る!さんま御殿!!』(同)で、伊代は階段につけまつ毛やペットボトルなどを置くクセがあり、早く片付けろという意味で、ヒロミが「ママ、これ、いつ片づけるの?」と聞いたところ「今日は忙しいし、明日も予定があるから、明後日」と平然と答えたエピソードが紹介され、これに対し明石家さんまは、「ヒロミじゃなかったら、離婚されてるよ。よく我慢してる」と言っていたが、果たしてヒロミは「我慢する夫」なのだろうか。
愛妻家アピールの陰で、ヒロミの行動は結構独善的であることに気づく。『有吉ゼミ』で、伊代は「結婚直後に、高価なバイクを私の意見を聞かずに買ってしまって、そういうことするんだってすごくビックリした」と語っていたことがあるが、ヒロミは伊代に相談をしないようなのだ。家計もヒロミが握り、伊代は家にいくらお金があるかを知らず、ヒロミがテレビから干されていた時期も、特に仕事に関する説明はなかったという。『アナザースカイ』(同)でも、インテリア好きのヒロミは頻繁に模様替えを行うが、その際も「1人で決める」そうで、全て自分の好みにしてしまうと語っていた。インテリア程度の問題ならさておき、夫婦でありながら、仕事やお金のことで意見を求めないというのは、妻にとってはなかなかの仕打ちだろう。
ヒロミがひどい夫だと言いたいのではない。料理も片づけでもできない伊代に我慢しているように語られるヒロミだが、伊代だって我慢していないことはないと思うのだ。我慢しているのは伊代も一緒で、つまりはお互い様というやつではないだろうか。
それにしても、愛妻家キャラを選んだヒロミは賢い。かつてヒロミは、ビートたけしやタモリなど、大御所芸人をわざと「おじさん」と呼び、大物にかわいがられることで得をしてきたが、今は女性視聴者の機嫌を取る方が強い時代であることがわかっている。10年の潜伏期間は無駄でなかったようである。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。最新刊は『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)。
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