怪談より怖い生身の人間……今号も人間の業と家族の呪縛があふれる「婦人公論」
「きょうだいに介護費用を負担してもらう場合は、自分ではなく、親御さん名義の口座に振り込んでもらう」「『したことリスト』をつくって介護の負担を平等に」などのアドバイスに納得しながらも「身内同士だと、お金のことは話しづらい」という相談者たち。そして「ただ一言、妹が『面倒かけてごめんね』とか、『ありがとう』と言ってくれていたら……」「『お母さんのこと頼むね』『いつもありがとう』という、ほんの少しの気づかいさえ感じられたら、ここまでこじれなかった」。親子、きょうだいと言えども、所詮は他人。そんなことはわかっていても、やっぱりあきらめきれないのもまた家族です。その呪縛から抜け出せるときなど、果たしてやってくるのでしょうか。
■幽霊より怖いもの……
怪談好きのみなさまにぜひともおすすめしたいのが、今号の巻末特集「戦慄の実話スペシャル 真夏の怪奇現象」です。「確かに見た、そこにいるはずのない人。理屈では解き明かせない、謎の生命体。超常現象とも呼ばれる事態の数々に遭遇した人たちの体験を、あなたはどう読みますか?」とリードにありますが、「確かに見た、そこにいるはずのない人(=生活を監視してくる隣人)」「理屈では解き明かせない、謎の生命体(=親の遺産を勝手に使い果たし、なおきょうだいにカネの無心をしてくる放蕩息子)」とか毎号毎号「婦人公論」に出てくるような気がしなくもなくない……。
さてこの怪奇特集、読者から募った「フシギ体験手記」受賞3篇と、それを選考した作家・岩井志麻子氏と雑誌「ムー」(学研パブリッシング)編集長・三上丈晴氏の対談「幽霊や生き霊より生身の人間が恐ろしい」がメイン。大賞「初老の女性と幼子が東日本大震災直前に現れた。彼女が伝えたかった思いとは」、佳作「先輩の部屋に生温かい生き物が。肩にバッタリと張りつかれて」「ジメジメ攻撃に消せない電気―異変の続く夢のマイホームに何かがいる」と、タイトルだけで内容がうっすらわかるのも怪談ならでは。恐ろしくも、ちょっとしんみり、そしてほのぼの。どれも怪談のツボを突いた秀作ばかりです。
そして岩井氏×三上氏も、自身が味わった、または話を聞いた“怖い話”をぶちまけています。岩井は“元マネジャー・るみちゃん”ネタを披露。この元マネジャーは岩井ファンにはおなじみの破天荒な女性ですが、「数年前には、一緒に住んでいた息子が『母ちゃん、あの女が来た!』と寝室から飛び出してきた。なんでもベッドに寝ていたら、上から覆い被さってきて、両足と両腿を抑えられ、さらに股間もまさぐられたと」と、息子に生き霊まで飛ばしてきたそうです。そんな中で韓国の有名マッサージ師に「アタナノ肩ニ何カイルヨ」と左肩を集中して揉まれたら、スッキリ。後に知り合いから「発疹で全身が真っ赤になった元マネージャーが『岩井さんに、ごめんなさいと伝えて下さい』と言って立ち去っていった」と聞いたと言います。それを「まさに人を呪わば穴ふたつです」と軽~い感じで返す三上氏。彼も彼で、悪霊に憑りつかれたマイホームの体験手記に「飲食店を開いたら、すごいパワースポットとして評判を呼んだかもしれませんよ」とプロのアドバイス。その他“見えないモノとの上手な付き合い方”のヒントが満載ですので、ぜひみなさんご参考になさってください。
昔から怪談話には“家族や先祖をないがしろにすると祟られる”という裏テーマがあります。昔から民話や怪奇譚として“家族愛”を刷り込まれてきた私たち。家族やきょうだいに悩まされながらも捨てきれない背景にはこんな一面もあるのかもしれません。岩井氏の「幽霊や生き霊より、生身の人間の怨念のほうがよっぽど怖い」という名言で真夏の「婦人公論」レビューはお開き。
(西澤千央)