イクメンはいい父親なのか? 女性の悩みから探る「父親」の存在と不在【カウンセリング編】
4回シリーズで「男性と結婚」について考える当連載。初回は結婚相談所に登録する男女の認識のズレ、2回目では「男性学」の見地から男性にとっての「結婚」の意味を探ってきた。3回目となる今回は、女性専用のカウンセリングルームを営む南波実穂子氏に、女性の悩みから浮かぶ父親・家族像から、男性の結婚観について話を伺った。
■母親と子どもの共同体で失われる父親の存在感
――カウンセリングルームを訪れる女性からはどのような悩みが寄せられるのでしょうか。
南波実穂子氏(以下、南波)本当にさまざまですが、配偶者や恋人から承認を得られない、私はこうしたいけれど相手に伝わらない、といった相談は多いですね。また、多いのが「なんとなく調子が悪い」というケースです。問題がわかっていないから悩む、というケースも意外と多いんです。
――承認欲求は大なり小なり、さまざまな人が抱えていそうですよね。
南波 それが、承認欲求の程度は人によって大きく異なるんです。これは脳の生まれ持った、変わらない「気質」によるもので、とても気にしてしまう人から気にならない人まで程度はさまざまです。変わりようのない気質によるものですから、他者からの承認が気になってしまう人は「気にしないようにしよう」と無理に押し込むアプローチではなく、いかに自分の承認欲求とつきあっていくか、と見ていくことが大切ですね。
――夫婦間の悩みでは、どういった相談が多いのでしょうか?
南波 夫から怒られたり、説教されることがストレスで、という相談が多いですね。特に、奥さんが働いていない場合「オレが稼いでいるんだ」と言われると、何も言えなくなり苦しくなってしまうんです。怒られたり、説教されたりが続くと自己肯定感が減っていきます。こういった場合、奥さんご本人が生まれ育った環境にいい父親がいない、というケースもあるんです。
――ひどい父親のもとで育つと、自分はこういった相手とは絶対結婚しない、と思うようになるのでは?
南波 人間の無意識は変わらないことをよしとするので、よくない状況であっても繰り返してしまう傾向はあるんです。
――不幸は無意識に連鎖してしまいがちなんですね。
南波 また、父親と娘の関係で注目すると、幼い頃の娘にとっての父親は「異性だけれど、自分を守ってくれる」存在です。それが思春期になり、「お父さんなんて嫌い」という時期がやってきます。ただ、娘が大人になると、「守ってくれるお父さん」と「性差が生まれてからのお父さん」が1つになり、1人の人間として、父親を見られるようになります。ですが、家庭内に問題があると、このお父さんの統合作業が進まないままになってしまいます。こうなると男女関係のみならず、人間関係にもトラブルが出やすくなってしまうんです。
――父親が働いていて母親が家にいる場合だと、どうしても家庭内の父親の存在感は薄くなりがちですよね。
南波 父親が家庭にいなくても、父親のよさをちゃんと子どもに伝えられるか、というのは母親の腕の見せ所だと思います。ここで逆に母親と子どもが共同体を築いてしまうと、父親の居場所が家庭にどんどんなくなっていってしまいますよね。
父親が「食べさせてやっているのに自分は大事にされない」、母親が「育児や家事は24時間の仕事なのに夫はわかってくれない」と、夫婦が互いに「相手はわかってくれない」ですれ違ってしまう。こういった家庭で育つと子どもの「父親像」も崩壊していってしまいます。でもこれは個々の家庭の問題というよりは、社会の問題でもあるのですが。