『稼がない男。』著者インタビュー

結婚も同棲も選ばないカップルが手にした、「世間に認められる」より得難いもの

2014/01/04 21:00
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『稼がない男。』(同文舘出版)

 『稼がない男。』(同文舘出版)は手取り11万のフリーター男性と15年以上付き合っている、あるアラフィフ女性の自叙伝だ。最初は2人とも大企業に就職するが、企業で働くことが性に合わなかった彼氏はフリーターになり、売るでもない絵を気ままに描く生活を、彼女は転職をくり返した末にフリーランスの道を選ぶ。

 「ヨシオ(彼氏)がずっとフリーターでいるわけはないだろうと思っていたけれど、ほんとにずっとフリーターだった」と語る著者の西園寺マキエ氏。今作では、アラフィフになってもまったく生き方も考え方も変わらない男と、年を重ねるごとに変わりゆく女の心境を描くと同時に、「未婚」「フリーランス」という属性の中で感じた生きにくさについて綴られている。結婚を選ばないカップルから見えた社会とは、そして「生きにくさ」の正体とは?

――『稼がない男。』は結婚しないカップルの話、消費社会に乗らない男の話、バブルからロスジェネにかけた1人の女が見た平成史の話とさまざまな方向から読めました。著者として一番書きたかったことは何でしょうか?

西園寺マキエ氏(以下、西園寺)ヨシオとの関係性ですね。稼がない男と17年間付き合ってきて、2人の関係がどのように変わり、どのようにお互いを受け入れてきたかが本の主題です。ある程度、女性読者を意識して書いたのですが、共感は男性読者から多く寄せられました。一方で、「子どもがいない、結婚していないからこういう生き方ができるんだ」といったご意見も多くいただきました。これはまったくその通りで、子どもが欲しい人や、結婚をしたい人には月の手取りが11万円の「稼がない男」はお勧めできません(笑)。

――男性読者にしてみれば、マキエという女性は自分の生き方を貫く男のワガママを許すいい女ですよね。しかし、見方によってはマキエが結婚や出産や生活において妥協とあきらめを重ねているだけにも思えます。


西園寺 妥協やあきらめというよりも、「受け入れた」と考えたいですね。このあたりはお互い様だと思います。ただ、私はヨシオに何か言うのを我慢したことは一度もないんです。稼がないことも、絵をあまり描かないことに対しても常に言いたいことは言ってきました。結果がどうなった、ということよりも、自分の考えを相手に伝えることは大切ですから。ただ、その結果、相手がどういった行動をとるかは結局相手の意志にゆだねるしかないと思います。

――30代後半まで、マキエには強い結婚願望がありましたが、マキエにとっての結婚の意味とはどういうものだったのでしょうか。

西園寺 今にして思えば、「結婚式がしたい、若いうちにウエディングドレス着たい」程度の他愛ない理由だった気がします。また、私が20代のころはバブル期と重なり、「クリスマスケーキ(※)」なる言葉もあって、今よりもかなり独身女性は肩身が狭かったというのは大きいですね。世代のムードに長く影響されていた部分はあるかと思います。今ですと、適齢期のピークが後にずれただけではなく、結婚をしない選択肢が女性にとっても現実味のあるものになってきましたよね。

※クリスマスケーキ:当時の女性の結婚適齢期をクリスマスケーキになぞらえた言葉。24、25歳が食べ時。26歳を過ぎたら売れ残り。

――強かった結婚願望にどう決着をつけたのでしょうか?


西園寺 ウエディングドレスを買い、ホテルのスイートルームを借りて、2人だけの結婚式をしたんです。安物だけど指輪の交換もしました。形だけのものでしたが、ウエディングドレスを着ただけで満足した部分もありましたね。あと、時間が解決した部分も大きいです。結果オーライではありますが、結婚をしなかったことでできた今のライフスタイルも、「これはこれでいいな」と思えるようになりました。財布も別だし、住まいも別だと“他人の家”、という感覚があるのでお互いにズケズケ入り込まない、いい意味での遠慮があります。もちろん、結婚し、一緒に暮らし、ケンカをしながらも家族の生活を作っていくことの価値は大きいと思っていますが。

 あと、母親が私とヨシオの関係を受け入れていったことも大きいです。母親は世代的なものもあり、「女は結婚するものだ」と疑いなく思っている人だったので、そんな母親が私たちの「結婚しない関係」に何も言わなくなったこと、それはそれでアリだ、と思ってくれたことは、私にとって、とてもありがたいことだったんです。私は母親と同居していますが、あまり仲良し親子ではありません。ただ、いがみあっているわけでも決してなく、たまに気を利かし親孝行しようと母親とどこかに出かけると、どうもうまくいかなくてイライラする、よくある母娘関係です。でも性格の明るいヨシオが間に入ると3人の関係がうまく回るんですよね。

『稼がない男。 (DO BOOKS)』