「帰って来ないでくれ」鬱で苦しむ兄の言葉に、帰省をためらう妹の苦悩
漫画家の柴門ふみさんが、夫・弘兼憲史氏との長年にわたる葛藤を語っている。子育て論や、恋愛論についての著作も多い柴門さんは、柴門さんの妹世代にとって、頼れる先輩のような存在だった。夫婦ともに売れっ子で、理想的な家庭だと思い、そのファミリー像や子育て論にあこがれた世代には少なからずショックな発言だった。たしか、弘兼さんのご両親とも同居していたはずだ。弘兼氏は「育児に熱心な男は出世しない」「子どもの行事より仕事を優先させよ」などと発言する人だから、介護も妻がやって当然と思っている可能性は大きい。現在は半別居状態だというが、介護拒否の表明か。そこのところ、ぜひ聞きたい。
<登場人物プロフィール>
川崎 みどり(41)関西在住。家族は夫、子ども2人
酒井 英一(46)川崎さんの実兄。中国地方在住
酒井 勝乃(75)川崎さんの実母。英一さん家族と同居
■鬱になった兄。休職と復職を繰り返しながら10年
川崎さんはここ数年、ずっと重い気持ちを抱えている。故郷の母親のことだ。
「心配事が母のことだけなら単純です。車で3時間ほどかければ帰れるから、私ががんばってときどき様子を見に行けばいい。でもそれができないから、ずっと悩んでいるんです」
川崎さんは大学入学とともに家を出て、そのまま就職、結婚した。川崎さんには兄がいて、地元の大学を出て、地元で教師になった。結婚後も両親と同居している。
「兄嫁も仕事をしているので、両親が孫の面倒を見ながら、家事もほとんど引き受けていました。両親は小さな商売もしていて、忙しそうでしたが、都会にいる私から見ればうらやましい暮らし方だし、両親の老後も安心だと思っていたんです」
家族に変化が起こったのは、兄夫婦に2人目の子どもが生まれた頃だった。兄が担任をしていたクラスでトラブルがあり、収めきれなかった兄は鬱になってしまったのだ。それからはたびたび休職を繰り返すようになった。
「最初の頃は、ゆっくりしていればいずれ治るだろうと、兄本人も家族も楽観的に考えていたのですが、少しよくなって復職するとまた悪化して休職してしまう。そんな状態がもう10年近く続いていて、今はみんな兄のことは腫れ物に触るような感じです」