コラム
仁科友里の「女のためのテレビ深読み週報」

小島慶子が、母への葛藤を乗り越えて「いいお母さんです」と語るに至った理由とは?

2015/06/18 21:00

 ところで、サッカーのワールドカップが開催されると、ヨーロッパはお祭り騒ぎになる。知らない人とも「試合見た?」と声を掛け合い、乾杯する。現地の人は、この熱狂の理由を「サッカーは代理戦争だから」という。第二次大戦が終わって70年の月日がたっているが、地続きのヨーロッパで行われた戦争は、彼らの関係性に深い爪痕を残し、侵略された側は侵略してきた側にいまだに遺恨がある。その恨みを晴らせるのがサッカーであり、事実、第二次大戦を引き起こした国が負けると、国籍問わず、自国の対戦相手でもなくても大喜びするのだ。

 日本の娘も、人生でもって母親の代理戦争をしているのではないだろうか。母親がなしえなかったこと、したかったこと。母親の顔色から、娘はそれを窺い、プレイヤーとなって戦い続ける。代理戦争を戦う娘にとって、母親は逆らうことはできない監督であり、倒さなければならない敵であり、試合結果に一喜一憂する無責任なオーディエンスでもある。この三種類の人々との戦いに全て勝利できないと、毒母問題に悩まされるようになる。

 小島は、この三種の戦いに勝利した。「週刊朝日」(朝日新聞出版)によると、小島の母は現在、局アナ時代と比べ物にならない彼女の活躍を非常に喜んでいるそうである。小島の母は、自分の学歴や男性経験、その他娘を追い込んだエピソードなど、できることなら隠しておきたい事実が書かれた『解縛』を、知人にうれしそうに配っているそうだが、これは、小島が母親の望む“成功”を手に入れた、ということである。

 “成功”に喜ぶ母を見ると、娘も変わる。冒頭の「いいお母さんです」という発言は、小島が自分の母親について述べたものである。小島は『解縛』において、かつて摂食障害を患い、嘔吐によりトイレをつまらせたとき、母に「(修理代が)いくらかかったと思ってるの?」と心配もされず怒られたと、その冷徹ぶりをつづっていが、 いつの間にか今の小島には「いい母親」になったようだ。

 小島にとって、いい母親か毒母かの定義とは、エピソードではなく、母が自分に対して好意的かどうかで決まるのではないだろうか。母が認めさえすれば、小島も過去の遺恨を飛び越えて、母を肯定できる。そこに必要なのは“成功”である。『NHK紅白歌合戦』の司会まで務めた有働アナのように、社会的に成功を収めた女性に毒母持ちが少ないのは、娘の成功が母親を“いい母親”にするからだろう。

 娘の成功が、自分のことよりもうれしい――そんな賛美されるしかない母親の特性も、小島の母との葛藤を知ると、実は“毒母”のもとであると、私は思う。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。
ブログ「もさ子の女たるもの

最終更新:2015/06/18 21:06
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