【男と結婚】――男が結婚したい理由(全4回)

「結婚しなければまともじゃない」男にとっての結婚の意味=“普通”の延命【男性学編】

2015/04/11 19:00

■「男の本能」「かつての日本は」はただの思考停止

――前回の記事で、結婚相談所に入会した男性が結婚を志望する理由として「子ども」の存在が筆頭に出ましたが、今までのお話を伺うと、これも、子どもがいないとさみしいんじゃないの、という「延命」理由の方が多いのかな、と感じます。

田中 そうですね。1953年時点は、養子をもらってでも家を継がせる、と日本人の7割が思っているんです。つまり血のつながりが重視されたのもここ60年の話なんです。当時はイエの方が大切でした。ですので「自分の血を継いだ子どもが欲しい」と思う理由が何なのか、よく考えないといけません。

――この手の話は男の本能だよ、とか生き物の本能だよ、とかで片づけられがちですよね。

田中 この手の議論で「本能」「生物学的に」が出ると一番どうしようもない話になりますね(笑)。何も考えてない思考停止の状態です。あと「かつての日本は」も思考停止ワードです。いつの日本だ、って話です。そういう人たちが思い描いているのは空想上の『三丁目の夕日』なんです。


――男性と話していると、思考停止というか「それはそういうものだよ」から先に進まなくてもどかしさを感じることがあります。「社会ってそういうもんだよ」「会社ってそういうもんだよ」のような……。

田中 本当は社会に納得がいかないんだと思いますよ。理不尽だと思っているけど男の人は定年まで働かないといけないと思っているから、受け入れないといけない。昔、サークルの先輩が学校に来て「社会ってのは理不尽なもんなんだ」と説教されたことがありますが、あれは先輩自身が自分を納得させたかったのでしょう。それも社会に出て10年もすれば言わなくなる。こっちの方が僕は恐ろしい。理不尽さを感じなくなるんです。理不尽さが改善されるわけではないのに。

 満員電車を不愉快だと感じる人は3割くらいしかいないんだそうです。毎日あれに乗らないといけないのに、つらい、と思っていたら乗れないですよね。考えるのをやめることで打開しているのではないでしょうか。

――考えないようにしたい、と思ってる人に考えろ、というのもなかなか難しそうですね。

田中 「お父さんだけが働く」という仕組みがもう崩壊しているんです。でも、そのイメージが残っているのがまずい。これは高度成長期につくられたイメージですが、この時期作られたトンネルや橋げたは耐久期間が過ぎたり、また手抜き工事などで事故も起き、今全国で補修が進んでいますよね。


「お父さんだけが働く」も、もう耐久年数がきているんです。でも物理的なものがないので、もうだめなのに、「大丈夫だ」という人が多いとそれで保ってしまうのがイメージの恐ろしいところです。イメージは点検できないし、大多数が抱いていたらそうなってしまう。実態がないので、手ごわい。

――みんなうすうす「これはもうダメだな」と感づいているのに、止まれないんですね。

田中 放置していたら悪くなるだけなんです。そこでまずいな、と思った人が、男性学に興味を持ってくれているのかな、と思いますね。

田中俊之(たなか・としゆき)
1975年生まれ。武蔵大学社会学部助教。博士(社会学)。専攻は社会学・男性学。著書に『男性学の新展開』(青弓社ライブラリー)。近刊に『男がつらい』(KADOKAWA中経出版)。

(文・構成:石徹白未亜)

最終更新:2015/04/11 19:00
『男性学の新展開 (青弓社ライブラリー)』
延命措置がそのうち絶望の入り口になる