サイゾーウーマンカルチャーインタビュー江戸女子は幸せだった? カルチャー 『江戸の女子図鑑』著者インタビュー 結婚出産だけが女の人生ではなかった――『江戸の女子図鑑』で知る、現代女性の“選択肢” 2015/04/05 16:00 女子カルチャーインタビュー 善養寺ススム氏 ――江戸時代の女性と現代の女性に通ずる「幸せ」は何でしょうか。 善養寺ススム氏(以下、善養寺) 江戸の当時、武家に生まれると儒教の教えが厳しく、さまざまな制約があって、堅苦しく肩身の狭い思いをします。しかし、庶民はそうではなくて、女性たちは自己実現に向けて自分の選択した仕事ができました。そこから見れば、現代の女性がどんどん仕事をしたいと考えていることは「時代の流れ」というよりは、伝統ともいえますよね。 また、日本では平安時代から女性だけでお参りなどの旅行もしているんですよ。これは欧米では珍しいことでした。なので、最近「女子旅」や「パワースポット巡り」が流行していますが、実は平安時代から変わっていないんですよね。女性って本当に昔から巡礼とか占いが大好きで、そういう類の商売につく女性もいっぱいいました。基本的には、昔も今も趣向や意識といった中身は、それほど変わっていないと思います。ですから、何を幸せとするかも、同じなんじゃないでしょうか? ――女性同士の関係性やコミュニケーションは変化してますか。 善養寺 武家と庶民のコミュニケーションというと、お互いに言葉使いが違うという点がまず挙げられます。庶民が武家奉公に行くのは、この言葉を習いに行くことでもありました。また、奥奉公では、武家と庶民が同じ職場で働くこともありましたが、そこで庶民の娘は武家の娘に対して、強い敵対心を抱いていたようですね。武家の娘が重労働や汚れ仕事を嫌がり、庶民の娘がやらされるからというのもあったのでしょう。 しかし、身分の違いにおける衝突はあまりなかったようです。それは、お互いに身分をわきまえることが、マナーであり、教養だったからだと思われます。マナーというのは社会の平穏を維持するのにとても重要ですよね。そして、意外に簡単に身分差は越えられました。庶民の娘が武家に嫁に行くことも可能だったからです。また、武家が庶民になることもできました。 それよりも、同じ身分の中での上下差に厳しかったのが、江戸時代ですね。武士の中でも階級や家柄のよさで上下が確定していて、その差は歴然としていましたし、商家でも雇い主と雇われる身などの身分差は絶対でした。これはつまり、別の会社にいる女性とではなく、同じ職場にいる女性との間の方が衝突しやすいのと、ちょっと似ていますよね。今も昔も、設定が違うだけで、こうした意識も一緒というところは面白いですね。 ――江戸時代の女性たちは、結婚だけが人生ではない生き方を知っていて、自由な精神を持っている気がしました。現代の我々が学べることは何でしょうか。 善養寺 当時の人たちって、男女問わず、あまりお金に頓着していないんですよ。お店はツケが多いですし、同じ長屋の人がお金に困っていたら、自分の着物を質に入れてまでお金を貸すなんていうお話もあります。お金は大事ですけど、人情や友情より上ではない、おおらかにお金と付き合えるっていうのは、いいですよね。 また、「血のつながり」にも、あまり縛られていないことにも注目したいですね。養子が普通に行われていました。「かぐや姫」や「一寸法師」「桃太郎」などの有名なおとぎ話は全部、捨子を拾って養子にする物語であるというのも面白いですよね。「自分がおなかを痛めて産んだ子じゃないと嫌!」ということではなく「よい子だったら迎えよう」という考えです。親類の子どもを養子にするのが一番ベーシックですが、武家では養子の面接もよく行われていました。当時の風習で素敵なのは、「本当の家族にならなければいけない」という縛りがあまりないことでしょうか。養子であることを前提に縁組みする例は多く、その場合「家族愛」よりも、「忠義」が家族の結束を強いものにしていたようです。そういうガチガチに縛られない適度な“ゆるさ”は再生してもいいんじゃないかなと思います。 ――今の女性と江戸時代の女性、どちらが幸せだと思いますか。 善養寺 文化や考え方などいろいろなことが進化しているはずなので、今の方が断然いいでしょう。それに歴史のよいところを取り入れられる、という点も現代のいいところですよね。例えば、日本では家計を奥さんに預け、旦那にお小遣いを与えるというスタイルがありますよね。これは江戸時代の「奥」の風習から来ているのだと思います。家族は表と奥の共同経営という感覚でしょうか。一方、欧米では、基本的に家計も男性がしっかり握って、必要な分だけ奥さんにお金を渡すスタイルで、「奥」の存在は希薄です。現代の日本では、共働きも多いので、お互いの経済は別というスタイルも選べますよね。自分たちに合ったスタイルができるのが、現代のよいところだと思います。 女性を取り巻く社会を見れば、「平等」を求める点はいろいろあると思います。しかし、そこにも偏見はあるのではないでしょうか。僕は若い頃「江戸時代は女性差別の激しい時代だった」と教わりましたが、それも偏見の1つです。現代ではハーバード大学でも「江戸の女性の政治」について研究されているほど、当時の女性たちは幅広く活躍していました。そこには「女性の間」というのがはっきりあったのです。今は「男性社会」なんていう言葉しかありませんが、例えば、江戸城の大奥は「女性社会」です。幕府の大老ですら、一方的に命令できない、大きな権力でした。そんなことも参考にして、日本らしい未来をつくっていくと良いのではないかと、思っています。 前のページ12 最終更新:2015/04/05 16:00 Amazon 『絵でみる江戸の女子図鑑 (時代小説のお供に)』 ちょっと目線をズラすだけでラクにならない? 関連記事 古典に育児放棄の記述も! 「昔はよかったのに」という幻想を暴く出産を神格化・扇動する声に思う、“産むか産まないか”は本当に女の一大事!?「東京は希望」「東京には何もない」山内マリコ×中條寿子の女子と地方「生」と「性」に折り合いはつけられない、不妊症の主婦がセックスの果てに見た希望「女性にとって期限があるのは出産だけ」白河桃子が伝えたい唯一の「後悔」 次の記事 ヌード公表という自己肯定術 >