カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」3月10日号

全然甘くない! 「婦人公論」の“大人の恋”特集は、トラブルと勘違いのるつぼ

2015/03/05 17:00

■「私(さくらさん)の言葉はハニー(やしき)の言葉」だそうで

 今号では巻末のミニ特集として「頼れるプロの見つけ方」なんていうページもございます。人生のトラブルに際し、弁護士や税理士、FP、探偵などいかにしてイイ“その道のプロ”を見つけるか。後腐れありまくりの“大人の恋”に悩んでいる方はぜひとも参考に。結局最後に勝つのは法律を味方につけた者。

 そう、どんなに愛し合っても、絆を深めあっても、日本における最大の愛の証とは「婚姻」。まるで水戸黄門の紋所のように、その威力は絶大です。続いて紹介するのは「師匠・やしきたかじんは本当の愛を知っている男でした」。こちらは、4年2カ月の間、故やしきたかじんの弟子をしていた打越もとひさ氏のインタビューです。打越氏は現在、やしきの妻さくらさんから名誉棄損で提訴されています。その元凶はもちろん、百田尚樹著の『殉愛(幻冬舎)。以前「婦人公論」ではやしきの長女の独占告白を掲載、それはさくらさんの言い分と真っ向から対立するとともに、知られざる“父やしきたかじん”へのやるせない思いがつづられていました。今回の打越氏のインタビューもまた、やしきとの思い出を語りながら、それが結果として『殉愛』の矛盾をつくような構成になっています。

 パンツにまでアイロンをかけるように命じる几帳面さと、酒におぼれた弟を“酒漬け”にして立ち直らせるという型破りな一面、金に困った友人に「貸すんやない、やるんや」と1,000万円渡す情……弟子から語られるやしきはテレビでのイメージに限りなく近いもの。本に書かれていた“父との断絶”についても触れ、「父親が倒れたとき、真っ先に病院に駆け付けたのは師匠です。僕が車を運転して病院へ送ったので、間違いありません」。そして「取材の甘さというよりも、百田氏は何かの意図を持ってこの本を書いたとしか考えられません」と訴えます。

 婚姻という絶対的な武器を手に、やしきたかじんという城を制覇しようとした妻。そこに“故人との思い出”というバリケードはどれくらい有効なのか、正直わかりません。「この本の帯には『愛を知らなかった男が、本当の愛を知る物語』と書かれているけど、それも真実ではない。歌手・やしきたかじんに弟子入りして、まず言われたのは、この言葉です。『歌は教えることができへん。人間は生きているうちに塵やら埃やら、いろんなものが付いてくる。それが人生や。それを自分でちゃんと理解して歌わないと絶対に伝わらない。歌い手の生きざまが歌になるんや』」。やしきのいう“生きざま”が今このような形で表れているとするなら、それは皮肉以外の何物でもないですよね。皮肉ついでに一つ、前述の工藤氏の宇野千代エッセイから「昨今では無償の愛などという言葉を、きわめて気軽に口にする人たちがいる。(中略)だが、その割には、男が亡くなると、必ずといってよいほど骨肉の遺産争いが勃発する。無償の愛とは、見返りを求めないことではなかったかと、不思議に感じる」。ほんと、不思議……。
(西澤千央)

最終更新:2015/03/05 17:00
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