『オーファン・ブラック』とリンクして考えた、大森靖子――擬態としての“スマートビッチ”
大森靖子が脚本作りにも参加、橋本愛が地下アイドルを演じる映画『ワンダフルワールドエンド』を特集した「spoon.」2月号
「とにかく全ての女子を肯定したいと思いました。わたしはずっと普通の女の子になりたかった。だから私は全員の女の子になろうと思いました。欲張りなんです」
そして重要なのは、前作アルバム『絶対少女』でみずからの音楽についてそう記す大森靖子が、きゃりーぱみゅぱみゅのようなアイコンネームをつけず本名で活動していることだ。キャラ化され消費されることの不毛さを知り尽くした彼女は、「芸名=特定のキャラ設定」でもたらされる「あれはキャラだから」という自己防衛術を嫌う。その上で、バリバリ私性を全開させて余計なことばかり言う。その際足るものが、『AOMORI ROCK FESTIVAL’14~夏の魔物~』出演時の「私、8月に結婚するんですけど、私の旦那とヤッたアイドル、今日いるからな!」という誰得なMCだが、この身銭切りすぎの”晒し”がときにあるからこそ、彼女の多面的な楽曲はすべて「大森靖子の私小説」にみえてやたら生々しい臨場感を持つのだ。
そう言えば大森靖子は握手会に来た女の子に親から「どうしてあなたは普通じゃないの?と怒られた」という話を聞き、こうアドバイスしたそうだ。「お母さんの遺伝子のせいだと思うよって言うといいよ」。この業の深さをエンタにしてちゃんと切り返す一代芸! このままの調子でどんどん行くと、大森靖子は年末には確実に平成生まれにとってのあたらしい「せいこちゃん」になっているだろう。
それはマスプロダクトとしてアイコン化したかつての「聖子ちゃん」とは真逆の、知る人ぞ知る「せいこちゃん」だ。だが、その暗号としての「せいこちゃん」は、大森靖子が深く制作にも関わっている映画『ワンダフルワールドエンド』が当初の単館レイトショー公開から続々と拡大公開が決定していることからも明らかなように、今やたら強い求心力を持ってシェアされつつある。