[連載]ここがヘンだよ子育て本!

なぜ渡辺満里奈は「ウットリ」と「ゲンナリ」の狭間に漂うのか……その答えは「育自」にあった!

2015/01/12 15:00
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渡辺満里奈『はじめてのこそだて 育自道』(ソニーマガジンズ)

【第2回】
渡辺満里奈『はじめてのこそだて 育自道』(ソニーマガジンズ)

<総合評価(10点満点)>
ストイック度 ★★★★★★★★
ナチュラル度 ★★★★★★★★
自分大好き度 ★★★★★★★★★

【寸評】

 会員番号36番。といっても若い人にはピンとこないに違いない。“元おニャン子”という過去から逃げるように、渋谷系カルチャー、ピラティス、台湾など趣味嗜好にタレント生命を預け、特に最近は「ていねいでナチュラルな暮らし」の伝道者として、いつのまにか女性誌界隈の羨望を集めるようになった渡辺満里奈。ママになった今も、辻希美や紗栄子のようにあからさまな反感を買うことはなく、安定したママタレライフを送っている。しかし一方では、その意識の高さゆえに「面倒くさい」と敬遠する人も一定数おり、「あこがれ」と「面倒」の間という非常に不可思議なポジションに立つタレントと言えるかもしれない。

 そんな満里奈の面倒くささが表れているのが、彼女の子育てエッセイのタイトル。その名も『はじめてのこそだて 育自道』(ソニーマガジンズ)である。「育児」じゃなく「育自」。“子どもを育ててるんじゃない、自分が育てられてるんだ”というこの思想は、昨今の意識高め子育てクラスタたちのキラーフレーズである。この言葉がアピールするところは2つ。1つは「自分はまだまだ成長過程な人間なんです」という謙虚さ、そしてもう1つは「子育てを“させられている”のではなく“している”私」という主体性。それは育児本の醍醐味である「子育てという未知の世界での発見」と「親としての成長期」にかなりリンクする。


 しかしこの『育自道』がスゴイのは、「育自」と言いながら満里奈自体はビタイチ変わろうとはしていないところだ。自分が妊娠・出産までに築き上げてきた「渡辺満里奈」たるポリシーを頑なに譲ろうとはしない。満里奈ならきっとこういう子育てをするに違いない、というセルフイメージから一歩も出ようとしないのだ。経験豊富、自立した大人の女性が「育児」に取り組むとき、その確固たる主義主張がかえって「育自」を遠ざける。満里奈の尋常ならざる母親業へのストイックさが、ある層には「うっとり」の材料となり、ある層には「ゲンナリ」の原因にもなる。読むだけで育児語りの窒息感を疑似体験できる、「育児、それは苦しい」と名付けたい一冊。

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 満里奈の子育てエッセイには、奇をてらったような育児法は1つも出てきません。小姑読者から叩かれそうなエピソードもありません。真面目に育児をしながら感じた日々の変化が、丁寧につづられています。しかし真面目すぎるがゆえでしょうか。“母親”という仕事を過剰に意識し、育児になんらかの“意味”を持たせてしまうのが『育自道』最大の見どころです。そこには常に「子育てこそクリエイティブな仕事である」という高い自意識があります。それを象徴するのは帯にも書かれているこの一文。

はじめてのこそだて―育自道