女目線と男目線を器用に使い分ける、「ar」のバランス感覚
「ハァ、だからナニ? ケンカ売ってんの?」と思わず絡んでいきたくなるような、まったくトキメキのカケラもないページです。水原希子じゃなくて、浅野ゆう子もイメージに近いし! だいたい「ar」は、女の子がカワイイと思うファッションやメイクばかりを集めた女子天国だと思っていたのに、なぜこんなどうでもいい男子企画を組むことになったのでしょうか。これ、「女目線だけでなく男のこともちゃんと考慮してますよ」という編集部のポーズ、あるいは読者への言い訳のように見えてしまいました。
■行き着くところは、やはり浅野ゆう子
「モテていいならロングにすべし!」というヘアスタイルのページを見てみましょう。「ar」は創刊時、美容室に置かれることを意識したヘアカタログ的な要素の強い雑誌でした。現在もその名残はあり、ヘアスタイルの企画は美容室で「コレ」とすぐ注文できるような実用性の高いページとなっています。
今回の企画で推しているヘアスタイルは「ツヤが際立って清楚に見えると大好評 ストレート×前髪あり」「アンニュイな表情で彼のハートをズキュン ウエーブ×前髪なし」「クールでスパイシー! デキる女の決定版 ストレート×前髪なし」といったスタイル。コピーは上滑りぎみなのですが、写真を見るとごくベーシックなロングスタイルです。コピーのしつこさに比べてあっさり、物足りないくらい。タイトルの下には、こんな説明文が添えられています。
「どんなに時代が変わっても、女らしさ漂う手入れの行き届いた長い髪に男は弱いのです!」
これすなわち、男目線を意識すると、浅野ゆう子のような「昔ながらのロング」に行き着くということになります。前段から述べていますように、今月の「ar」は、男目線を意識しており、無難なところにおさまりたがっているようです。男目線、それは彼氏や彼氏候補となる男たちであり、読者対象である20代後半~30代前半のOLにとっては、男=社会(上司、先輩女性、お客さん、彼氏の両親などなど)でもあります。ここでも、「雌ガール」や「おフェロ」を体現する道化になりきれない、「“現実”も見失ってませんよ」と編集部が自らのバランス感覚を一生懸命アピールしているように思われます。
ファッションページは無難なOL服の着回しに終始しているわけではなく、頭にでっかいリボンを付けたり、白鳥みたいな羽根スカートをはいたりして、女子的な「カワイイ」を捨てているわけではありません。言ってみれば、「女子会」と「会社の飲み」を、1冊の中で巧みにうまく使い分けているのです。女子同士で「これ、カワイイ~」と言うときの感覚と、会社ではやっぱり無難路線がいいという感覚。ふたつの目、感覚を使い分けながら、服を着てメイクして仕事やデートに出かけていく私たち。我が道を突っ走ることは、「雌ガール」を標榜する「ar」であっても、恐ろしくてできないということなのでしょうか。
(亀井百合子)