コラム
[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

「アイ・アム・クズ」意識に呪われた己を慰める、一杯の味噌汁の“リハビリ効果”

2014/07/20 21:00
(C)安彦麻理絵

 先日、友人宅で久し振りに、ほんっっとに久し振りに、夫以外の人と一緒に酒を飲んだ。「6月生まれの人の合同誕生日会」という名目だったのだが、10人以上は集まってただろうか。いつも「夕飯作りながら台所で一人酒」の私には、本当に活気溢れる空間であった。「台所一人酒」は、例えるならば「何十年もほったらかされて発酵しすぎた、ボッテリとしたぬか床」のようである。それに対して「友人宅で大勢と酒」は、まるで「鮮魚ピチピチ!! とれたて!! 築地市場!!」ってな感じだった。

 だからだろうか、普段とはまったく違う環境で飲んだ酒は、あっという間に私を酔わせた。そして、ハッと気が付いたら、私はいつのまにか友人宅の茶の間で、腹這いになって死体のように寝ていたのである。時計を見ると、時刻は午前4時近く。私は慌てて友人に礼を言い、雨がそぼ降る中を歩いて帰宅した。

 後日。その会に参加していた友人漫画家の大久保ニュー姐さんに「マリエ姐さん、あん時ゲロ吐いたの覚えてないの?」と言われ、仰天した。まったく記憶にないのである。「ゲロっていうか、ゲロって感じでもないんだけどさ」と、ニュー姐曰くその時私は「なんか急に、口元からツーっと、赤ワインを垂らし始めた」んだそうである。そして、平然と「……あら」と気が付き、友人たちにティッシュで拭いてもらい、そのままバタンと寝てしまったらしい……本当に、まったく全然記憶にない。酔って何やってたかわからないなんて恐ろしすぎる。

「なんだか、無駄にトシくってるだけみたいな気がするな……」

 私は、自分自身に対して心底ガックリしてしまった。「飲んで記憶なくしちゃって~♪」が許されるのは、若い子だけである。若い子の「記憶喪失」「路上ゲロ」は、見ていて微笑ましいものがある(案外私は寛容なのである)。それに比べて、四十(しじゅう)過ぎた女のソレは……。口から吐き出される激しい酒臭……充血して濁り切った白眼……ズルリと崩れ落ちたファンデーションやマスカラ……本当にまさに「妖怪ウォッチ」だ。その後、私の赤ゲロを拭いてくれたA子が、「赤ワイン・つ~~」をやらかしてる私を「なんか『太夫』って感じでしたよ」と言っていた……「太夫」って、どういうこった。中年女の泥酔には「妖怪・太夫」感が漂うって事か。どっちにしろ「バケモノ」なのに変わりはない。

 ところで、長年、酒がらみで散々こんな事をやらかしつつも、今までの私は、そこまで自分の事を「クズ」とは思っていなかった。失敗やらかして落ち込む事はあっても「世間でよくあることだろう、こんな奴いっぱいいるだろう」なんて思ってたのだ。これはやはり、元・夫が、自分も飲むのが好きな人で、酒飲みに対して寛容だったというのが大きいだろう。しかし、その元・夫とも別れてからは状況が一変した。というのも。私が再婚した新しい夫は、「酔っぱらいが大嫌いな男」だったのである。とはいえ別に、酒が飲めないわけではない。そんなに強いわけでもないが、友達と飲むのはお好きなようである……が。「泥酔してる奴」が、ホントにめんどくさくて嫌いらしいのである(それでなんで私なんかと結婚する気になったのかは、本当に謎である)。「酔っぱらいが嫌い」というのは、なんとなく私にもわからんでもない。なにしろ酔っぱらいは、自分に甘いし、散々人に迷惑かけてもソレを「武勇伝(笑)」的に語る人もいる。泣いて笑って怒ってゲロ、時には異性を口説いて食い散らかしたり、そんな好き放題やりたい放題な生き様にイラッとくるのだろう。何しろうちの夫は「自分をさらけ出すのが本当に苦手な人間」なのである。

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